子どもの健康を考える「子なび」
医療・健康・介護のコラム
発達障害(20)褒めたのに叱ると混乱
発達障害では、精神科医で信州大付属病院子どものこころ診療部長の本田秀夫さんに聞きます。(聞き手・松本航介)
発達障害の3歳の娘がいるお母さんの話です。自宅のベランダで育てているイチゴが実をつけた時のこと。まだ青いのに、この子が実を二つ、もいでしまいました。
青い実をもいだことをお母さんが叱ろうとすると、この子は無邪気に二つの実を指さし、「オオキイ」「チイサイ」と言ったのです。この子はそれまで、「大きい」「小さい」の概念を理解できていませんでした。それを初めて言えた瞬間でした。お母さんは思わず、「よくできたね!」と褒めました。そして、はっと困りました。「でも、青い実をもいだのはよくない」
こんな時、どうします? 「『大きい』『小さい』を言えて偉いけど、青いイチゴをもいではだめ」と叱りますか?
そんな複雑な言い方は、3歳の子には分かりません。しかも発達障害の子です。褒めたのに叱ると、混乱するだけです。
お母さんは英断を下しました。大きい、小さいを言えて褒められたと記憶させるために、イチゴをもいだことは注意しないでおこう、と。
その後の対応も見事でした。自閉スペクトラムの特性を持つ子は、一度やったことはこだわって何度も繰り返すことがあります。この子も今後、イチゴを見るたびに、青い実を二つもいできて「大きい」「小さい」と繰り返す可能性がある。
そこでイチゴを娘の目に触れないところに移しました。イチゴが娘の目に留まらなければ、もいでしまうこともありません。大小を言えて褒められたというよい思い出だけを残し、問題行動は防いだのです。
こんな育てられ方だと、明るく穏やかで、意思疎通も上手な子に育ちます。わが子の特徴をお母さんがよく理解していたからこそできた判断でした。
【略歴】
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
1964年、大阪府豊中市生まれ。精神科医。信州大医学部付属病院子どものこころ診療部部長・診療教授。日本自閉症協会理事。著書に「自閉症スペクトラム」など。
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