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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

「おたふくかぜ」…治るからと思ってあなどってはいけない

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続く感染力 10日間もの休みが必要に…

 感染期間の長さも特徴的です。麻疹や風疹が発症後5日間なのに比べ、9日間ほどと、長いのです。

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 学校保健安全法では「耳下腺、 顎下(がっか)腺又は舌下腺の 腫脹(しゅちょう)が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで出席停止」となっており、おたふくかぜにかかったら10日程度欠席する必要があります。子供が発症したら親は世話をするでしょう。共働きの家庭が多い今、これは大きな問題です。当然、大人がかかったら職場に行くべきではありません。

 これで、おたふくかぜがいかに社会生活を脅かすのか、わかっていただけたと思います。

 ところが、このおたふくかぜに対して、社会の備えができていないのです。日本ではおたふくかぜは軽視されてきたのです。

 諸外国には、麻疹(measles)、おたふくかぜ(mumps)に風疹(rubella)の頭文字をとった「MMR」という「三種混合ワクチン」があり、小児に2回接種することになっています。

 MMRは、かつて日本でも定期接種していました。しかし、脳に影響を与える「無菌性髄膜炎」の副作用が問題になり、1993年に事実上終了してしまいます。その後、「無菌性髄膜炎」が副作用として出るのは、MMRの中の「おたふくかぜワクチン」のためだと判明。これを除いた「麻疹・風疹ワクチン(MRワクチン)」が導入されました。現在も小児の定期接種にはMRワクチンが使われています。

 問題なのは、ワクチンで予防できる「おたふくかぜ」が、無菌性髄膜炎を引き起こすことです。しかも、ワクチンの副作用リスクよりも、感染症の発症リスクの方が大きいのです。

 前述のようにおたふくかぜに有効な治療法はありません。しかし、ワクチン接種という有効な予防法があります。ところが、以前のものより副作用も減っているワクチンが定期接種に組み込まれていないため、接種者数はとても少ない。すべての人が接種すべき――というのが国際的には常識なのに、です。

予防接種「後進国」…さらに「周回遅れ」に

 ぼくは、日本の感染症領域には、ワクチンの副作用リスクを恐れ、もっと大きな感染症のリスクを無視するという、リスク管理の稚拙さがあると思っています。それを最も如実に示しているのが、おたふくかぜワクチンです。

 米国予防接種諮問委員会「ACIP」は昨年、すでに2回の接種を受けていても、おたふくかぜが流行のために感染リスクが高い時は、 3回目の接種をするように推奨しました。これは、臨床試験などで集団発生時には3回目の接種を追加すると、2回だけの接種よりも有効だとわかったからです。

 翻って日本はどうでしょう。こうした新しい研究成果が発表されても、国立感染症研究所のホームページでも、そのデータは反映されていません。

 日本は昔から予防接種後進国だと言われています。今回のおたふくかぜの現状を考えると、その「周回遅れ」の状態がさらに増して、世界からまた引き離されてしまったと、ぼくは感じてしまうのです。(感染症内科医 岩田健太郎)

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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4件 のコメント

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ワクチンだけではなく総合的な感染症の対策

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

海外との取り組みの違いの理解は大事です。 WHOは世界を主導する欧米の団体であって、日本の人種やその特性が軸ではありません。 HPVワクチンの副...

海外との取り組みの違いの理解は大事です。
WHOは世界を主導する欧米の団体であって、日本の人種やその特性が軸ではありません。
HPVワクチンの副反応を巡る判断はデリケートで、ADEMというワクチン接種後脳炎の存在がある以上完全には否定できませんし、WHOは世界標準であって真実の絶対解ではありません。
また、ワクチンは全身の免疫反応を刺激するので、打っても、打たなくても、様々なメリットとデメリットが存在します。(新たな抗癌剤である分子標的薬にも類似の問題がある。)
ワクチンを打たなかったゆえの重症患者もいれば、打ったがゆえの様々な症状もあります。

僕自身、インフルエンザワクチンが体質に合わないので、強制接種は困るという患者の目線もあります。

ワクチンは様々な疾患の診断治療における予防治療の一つです。
小児科であれ、内科であれ、役職付きでも大半は特定部位はともかく複数科に跨る全身の画像診断に強くありません。
特定個人の才能や努力のせいではなく機械の進歩が速すぎるせいです。
ソ連崩壊と同じく、時代の歪みの積み重ねが出ているだけです。

より精密にやるには人手もエビデンスも必要です。
ワクチンありきの議論ではなく、ワクチン医療の発展のためにもワクチン摂取の有無にかかわらないベストサポートのシステムを組んで世界医師会長の次に輸出できると良いですね。

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WHO

おむすび山

WHOはワクチンで防げる病気についてワクチンの定期化無料化を推進していますが、日本の取り組みは遅れがちでコラムのおたふく風邪は未定のままです。接...

WHOはワクチンで防げる病気についてワクチンの定期化無料化を推進していますが、日本の取り組みは遅れがちでコラムのおたふく風邪は未定のままです。接種方法にも外国に比べ様々な制約があります。ちなみにアメリカやヨーロッパの国々がどれだけの予防接種を義務化しているか比較してみると良いでしょう。先進国で撲滅したはずの麻疹が2007年に日本で大流行し麻疹の輸出国との汚名を受けたのも、接種率の低さが背景にないでしょうか。日本脳炎や子宮頸ガンワクチンについては日本の姿勢をWHOは非難したと聞いています。
私の家族は小児科の教授をしていますが、重症化した患者さんを目の前にしてはワクチンさえ受けていたら防げていたのにと嘆いています。このコラムでは是非とも海外との取り組みの違いを明らかにしていただきたいと思います。

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古くて新しい未知とどう向かい合うべきか?

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

岩田先生は他のワクチン推進派と違ってワクチンの弱点や副作用を隠さないのがフェアで良いと思います。 結局、ワクチン自体に弱点がある以上、日本のよう...

岩田先生は他のワクチン推進派と違ってワクチンの弱点や副作用を隠さないのがフェアで良いと思います。

結局、ワクチン自体に弱点がある以上、日本のような国家であれば任意接種というのがほぼ結論になってくると思います。
1万人に1人でも、本人や家族にとっては1分の1です。

ということは任意接種群に関する丁寧なフォローや副作用患者へのサポートが理論上は望ましい事になります。
精巣や卵巣の炎症はあまり人に見せるような部位ではないですし、また、鑑別に挙がる周囲臓器の症状との兼ね合いからも難しいと思います。
だからデータが出てきません。
そういう意味でも、MRIや超音波などの画像診断は重要性を増すでしょう。
エビデンスや思考実験を積み重ねて、走りながら考えるところだと思います。

ワクチンの先進国か、後進国かというのはそこまで問題ではないでしょう。
人種も地域も極東の島国という日本は独特です。
LCCの影響もあって、感染症の流行や種類も多様性が危惧されるので、様々な準備ももちろん大事ですが、独特であることは悪い事ではありません。

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