肝硬変
シリーズ
【平成時代】命の質(2)脳死移植進まない日本
1990年6月19日、信州大学病院(長野県松本市)で始まった国内3例目の生体肝移植手術は、約16時間後の20日未明、無事終了した。当時7歳だった胆道閉鎖症の女性(35)に、当時36歳の父親(64)の肝臓の一部を切除して、移植した。
約40日後に退院。ずっと付き添っていた母親(57)は、「 黄疸 による目の黄ばみが取れて真っ白になった。こんなにもすぐ変わるのか」と驚いたという。娘が健康体になったことを実感した。
女性は翌年4月、2学年遅れで小学1年生に入り直した。水泳や接触を伴う激しい運動は見学したものの、5年生からはマーチングバンドでトランペットを吹き、大会にも出場した。中学では、はしかで入院したこともあったが、手厚い医療に支えられ大事なく乗り切った。
日本移植学会のファクトブックによると、2016年までに国内で8447件の生体肝移植が行われた。手術から5年後の生存率は78%、10年後の生存率は73%で、脳死移植との治療成績の差はないとされる。
女性の手術を手始めに、数多くの生体肝移植に携わってきた外科医の幕内雅敏さん(71)(現・東和病院院長)は、「生体肝移植によって多くの人が元気になったという事実を示したことで、移植を患者にとって身近な医療にできた」と振り返る。
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