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無痛分娩 安全策は(下)「日本を愛した娘の悲劇 繰り返さないで」

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ロシア人母が手記~厚労省研究班「提言案」に寄せて

無痛分娩 安全策は…「日本を愛した娘の悲劇 繰り返さないで」

ロシアから来日した母・リュボビさんとの旅行先で。日本らしい風景が大好きだったエレナさん。この2年後、事故にあった(2010年、家族提供)

  無痛分娩(べん)の安全対策について厚生労働省研究班がまとめた提言案に対し、事故にあった妊産婦の家族が次々に声を上げている。その一人が、ロシア人の医師、ボイコ・リュボビさん(63)だ。

 リュボビさんの娘で、日本の大学でロシア語を教えていたエブセエバ・エレナさん(41)は、2012年、夫の日本人男性との間に授かった第1子の長女を京都府京田辺市にある診療所で無痛分娩で出産する際、事故にあった。この診療所ではエレナさん以外にも2件、産科麻酔を巡る重大事故が起きていたことが17年に明らかになっている。

 リュボビさんは、娘と孫の介護のために医師の仕事をやめて来日し、同年7月には寝たきりの2人も含め家族で記者会見を開き、再発防止を訴えている。今回、リュボビさんが読売新聞に手記を寄せた。(ロシア語翻訳協力・小児科医 橋本加津代さん)

リュボビさんの手記(概要)

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記者会見に同席した寝たきりの孫の手(右)をリュボビさんの手がやさしく包み込んだ(2017年7月、京都市で)=尾崎孝撮影

 私の娘が、京都の開業医「ふるき産婦人科」で無痛分娩の麻酔を受けた後、昏睡状態に陥ってから6年目になります。その時に生まれた孫も寝たきりで、自発呼吸はなく、人工呼吸器につながれています。私はこの問題にとても関心を持っていますが、だからこそ感情的になっているのではないかという不安もあります。特に、昨年10月に京都地検が院長を不起訴とする判断を下した後はなおさらです。それでも、私の意見に興味を持ってくださるのであれば、コメントを簡潔にまとめてみようと思います。

 私個人としては、安全な無痛分娩には、産婦人科医だけでなく、麻酔科医、新生児科医などからなる医療チームが必要だと思っています。そのうえで、気管挿管などに必要な医療機器、ショック症状が起きたときに必要な薬剤などが一式、必要です。このような条件がそろって初めて、安全な無痛分娩ができると考えます。

 提言案は、医師が1人しかいない診療所でも無痛分娩を行うことができる内容とか。研究班は、それを禁止すれば大きな病院に妊婦さんが集中することをおそれているそうですが、私にもそのことは理解できます。ここでこそ、詳細な統計が必要ではないでしょうか。無痛分娩が多いのは、どこの都道府県でしょうか? 自然分娩と無痛分娩の比率は? どのようなトラブルがどれくらいの頻度で起きているのでしょうか? それらを調べた上で、出産が多く、無痛分娩が多く行われている地域には、必要な人員と機器を完備したセンター病院を整備することも一つの方法だと思います。

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散歩中に自宅近くで家族そろって。夫の誕生日を祝って訪問看護師が撮ってくれた(2017年3月、家族提供)

 安全な出産は、医師の技術水準に負うところが大きいものです。私が数年前まで医師として働いていたロシアでは、医師の資格は5年ごとの更新制でした。医学部を卒業して1年間のインターンを終了すると、医療機関で5年間仕事ができる資格を得られます。この資格を更新するには、約1か月間、実践的な臨床にかかわる問題や理論に関する講習を受け、試験を受けて合格する必要があります。医師として働くためには全員がこの講習を定期的に受けねばならない仕組みで、通常ありえない問題が起こらないようにしているのです。日本でも、世界各国の医師の養成や研修制度を調べて分析し、日本に最適な制度を考えるとよいと思います。

 研究班は、無痛分娩と通常のお産の妊産婦死亡リスクについて、「さらに詳しい調査が必要」としながらも、「リスクはほぼ同じ」とみていると聞きました。本当にそうなのでしょうか。分析に使ったデータの詳細を知りたいところです。その調査の対象は病院でしょうか、それとも診療所でしょうか。それによっても結果は異なるのではないでしょうか。無痛分娩や自然分娩を経験した女性たちにも調査をしてほしいです。安全性に関して研究班の結論を出すには、その根拠となるもっと確かな統計が必要だと思います。そもそも娘のケースは、研究班が安全性の評価に使った調査に含まれているのでしょうか。同じクリニックで起きた別の2家族の悲劇も、含まれているのでしょうか。

 娘は日本を深く愛していました。昨年7月に開いた記者会見の冒頭でもお伝えしましたが、娘や孫の救命やリハビリに、専門性とともに人としてのあたたかな心をもってあたってくださった医師やスタッフの方々に対して、心から感謝申し上げます。そして、日本の皆さまに、私たち家族が襲われたような不幸から、あなたや家族を守るには何が必要かについて、関心を持っていただきたいと繰り返しお伝えしたいと思います。

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