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認知症、脳血管を若返らせて回復図る…新治療法開発目指し研究グループ発足へ

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認知症、脳血管を若返らせて回復図る…新治療法開発目指し研究グループ発足へ

 治療が難しいアルツハイマー病などの認知症に対し、老化した脳血管を若返らせて回復を図る新たな治療法開発を目指す日独の国際研究グループが4月、発足する。

 大学など5機関の研究者が参加する予定で、中核となる先端医療振興財団(神戸市)は「今後5年間で治療につながる成果を出したい」としている。

 認知症で最も多いアルツハイマー病は、「アミロイド βベータ 」や「タウ」と呼ばれるたんぱく質が脳内に異常にたまり、神経細胞が死ぬことで発症するとされる。

 発症後にこれらのたんぱく質を取り除いても、既に多くの神経細胞が失われており、機能回復は難しい。生き残った神経細胞の情報伝達力を高めて記憶や学習を助ける治療薬はあるが、病気そのものは治せない。

 同財団の田口明彦・再生医療研究部長は、不要なたんぱく質を取り込んで除去する脳血管の働きに着目。老化で働きが衰えた脳血管を再生すればたんぱく質の蓄積を防ぎ、神経細胞の活性化も期待できるという。

 この手法は、脳 梗塞こうそく などに伴って発症する「脳血管性認知症」の症状改善にも有効とみられ、合わせて認知症患者全体の8割程度をカバーできる計算だ。

 同財団は、手足の血管が詰まって指などが 壊死えし する病気の患者に血管再生を促す細胞を注射し、治療してきた実績がある。同様の手法で認知機能を回復できるかを検討するほか、脳血管再生を促す新薬開発も視野にグループ発足を決めた。

 脳血管に詳しい慶応大や九州大、神戸大の研究者が加わるほか、欧州最大級の研究機関「フラウンホーファー研究機構」(ドイツ)も協力。同機構のヨハネス・ボルツ教授は「再生医療分野で世界をリードする日本と協力し、高齢化社会に立ち向かいたい」と話す。

 今後、国内外の研究機関や製薬企業などに広く参加を呼びかける方針で、田口部長は「脳血管に着目した、今までにない治療法を生み出したい」と意気込む。

          ◇

【アルツハイマー病】  認知症全体の6~7割を占め、患者数は2012年時点で推定300万人以上。記憶が欠落したり、時間や場所がわからなくなったりする。

新治療法、課題克服に期待

 高齢化が進む中、多くの製薬企業が認知症の新薬開発に取り組んできたが、目立った成果はなく、開発中止も相次ぐ。再生医療の技術を取り入れた新たな治療法は、従来の課題を克服できる可能性を秘めている。

 新薬候補の多くは、脳内にたまるたんぱく質を取り除くタイプだ。ただし、それだけでは回復が見込めないことが、失敗の積み重ねからわかってきた。

 脳血管を再生させる手法は、たんぱく質の除去だけでなく、脳の血流を増やして神経細胞に十分な栄養分や酸素を送り届けることにもつながり、より高い治療効果が期待できる。

 一方、発症の仕組みには、なお不明な点も多い。今回の手法が実際に役立つのか、今後の研究に注目したい。

(科学医療部 諏訪智史)

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