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医療・健康・介護のコラム

医師と患者はわかり合えないのか? …「ディア・ペイシェント」

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 医師で作家の南杏子さんの最新刊「ディア・ペイシェント」(幻冬舎)では、東京近郊の病院で働く30代の内科医・千晶が、患者との関係に悩みながらもよき医師であろうと奮闘する姿がミステリータッチで描かれています。「大学病院の奈落」(講談社)の著者で、自身も「医師と患者の関係」というテーマを追い続ける読売新聞医療部の高梨ゆき子記者が、作品に込めた思いを聞きました。

患者側からの暴言、クレーム…過半数の医師が「経験」

南杏子(みなみ・きょうこ)1961年、徳島県生まれ。日本女子大学卒業後、出版社勤務を経て東海大学医学部に学士編入。東京都内の終末期医療専門病院に内科医として勤務。2016年、終末期医療のあり方を問う「サイレント・ブレス」で作家デビュー。

南杏子(みなみ・きょうこ)
 1961年、徳島県生まれ。日本女子大学卒業後、出版社勤務を経て東海大学医学部に学士編入。東京都内の終末期医療専門病院に内科医として勤務。2016年、終末期医療のあり方を問う「サイレント・ブレス」で作家デビュー。

――なぜこのテーマを選んだのですか。

 今はドラマの影響で、医師というとスーパードクターか悪徳医師か、極端なイメージが強いですね。毎日診療をしていて、スーパードクターが患者さんの苦しみを解決してくれるとか、逆に患者さんが悪徳医師にいじめられているとか、そんな単純なものではないという思いがあって、リアルな現場を書きたいと思いました。

――患者が多すぎて診療に忙殺される医師の姿、クレーマー、コンビニ受診、医療訴訟といった、医療現場の抱える様々な問題が扱われています。奥さんの検査までに時間がかかりすぎると言って怒る男性のエピソードもありました。現実の体験もあるのですか。

 作品はフィクションですが、体験がミックスされたところも多いです。待ち時間が長い、というクレームはしょっちゅう。直接言われなくても、あとで看護師さんに「あの方、怒っていましたよ」なんて言われると、ドキッとして、「もっとフォローの仕方があったかも」と思うこともあります。でも、すごく怒る人というのは、誰かのためにそうしていることが多い気がします。患者の代弁者にならなければという思いやりの気持ちがあると、人はパワーが出るものですから。

高梨ゆき子記者

高梨ゆき子記者

――クレーマーといわれるような人は、そんなに多いのですか。

 クレームはありますね。ただ、少なくとも都市部では、クレームをつける前に、まずは受診しなくなってしまうことも少なくないと思います。実際に耳にするクレームで最も多いのは、他の医師へのクレームだったりするからです。「あの先生は、ちっとも患者の顔を見てくれない」「ゆっくり話を聞いてくれない」「薬を飲まなかっただけで怒鳴った」などです。医療従事者向けの情報サイトの「ケアネット」が昨年3月、会員医師1000人を対象に行った調査によると、患者あるいは家族からの暴言や暴力、過度のクレームや要求を受けた経験があると答えた医師は、55.1%に達しています。

打たれ弱い医師…クレームは女性従事者に向かいがち

――お会いする前に、別のお医者さんに聞いてみました。ベテランの男性で、「医者は『クレーマーがいるから』と言い、患者さんは『悪徳医師がいるから』と言ってしまいがちだけど、クレーマーも悪徳医師も、実はそんなにいないと思う」と言っていました。立場の違い、見えているものの違いによる行き違いもあるのかな、と思いますが。

 確かに、大多数の人は普通の患者さんでしょうね。ただ、100人に1人でもそういう人がいると、医師は、すごく落ち込みます――人間ですから。それに、医師には打たれ弱い人が多いのかもしれません。

 成績がよくてまじめで、患者さんのために役に立つ存在になりたい、と純粋に育ってきた人が多いので、まさか訴えられるなんて、夢にも思わないわけですよ。自分ではなかったとしても、知人が訴えられると周囲に激震が走ります。それで防衛的になる面はあるように思います。もう一つ言えるのは、医療現場でのクレームは、女性の医師や看護師、若い受付スタッフなどに向けられることが相対的に多いという事実です。もしかしたらこうした点は、男性医師の目につきにくいところかもしれません。

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