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[滝田洋二郎さん]「生涯現役」で作品を世に
今回の映画は「老い」がテーマ。僕自身、年齢を重ねた今だからこそ撮れる、と感じるシーンがたくさんありました。親への思いや、育ててくれた人への感謝の気持ち、家族に対する考え方は若い頃と違ってきますからね。各世代の心に迫る作品になったと思います。
映画に携わる人間は、いいものを撮るためならどこへでも行くし、どんな大変なことでもやってやろうと突き進む。その結果、自分も苦しむのだけど、達成感は最高でね。よくやった!と、食べて飲んで話すうちに「もっとやるぞ」と思ってしまう。
常に映画のことで頭がいっぱいで、電気のスイッチのようにオフに切り替えられない。そのくらいのめり込んでしまうのです。
でも時々、自宅近くの高架橋の上から富士山を眺めると、気持ちがほっこりします。ちょっと雲がかかっていたり、かすんでいたり、同じに見える日がない。道行く人も「あら」って笑顔で足を止める。日本人の心を引きつける、不思議な山なのですね。
60歳を過ぎ、同世代は定年や、趣味を生かした第二の人生を意識する年齢でしょう。僕だって、映画なんて全く関係ない趣味を見つけたいって思う時があるんですよ。でも、難しい。
誰も見たことがない、想像もつかないような、わくわくする作品をまだまだ世に送り出したい。そんな思いがある僕はきっと「生涯現役」ですね。(聞き手・大広悠子、写真・高橋美帆)
◇たきた・ようじろう 映画監督。1955年、富山県生まれ。代表作は「陰陽師」や、米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「おくりびと」など。10日から吉永小百合さん主演の「北の桜守」が公開予定。
(2018年3月9日 読売新聞夕刊掲載)