ニュース・解説
知りたい!
  • 標準
  • 拡大

発達障害「自閉スペクトラム症」解明進む…セロトニン減少、発症に関与か

 発達障害の一種で、対人関係を築くのが不得意な「自閉スペクトラム症(ASD=autism spectrum disorder)」について、発症の仕組みを脳科学的に解明する研究が進んできた。治療薬の開発などにつながると期待されている。(竹内芳朗)

自閉症、アスペルガー症候群などの総称…国内100万人以上

発達障害「自閉スペクトラム症」解明進む…セロトニン減少、発症に関与か

 ASDは、一般には「自閉症」「アスペルガー症候群」などと呼ばれる症状の総称。人口50~100人に1人の割合に上り、日本では計100万人以上とみられる。男性が女性より数倍多い。全体として▽コミュニケーションが不得意▽普段と違う行動を嫌がるなど、こだわりが強い▽視覚や聴覚など五感が非常に敏感、あるいは鈍感――といった特徴がある。社会生活で苦労することが多い一方、特定の分野で優れた才能を発揮する場合もある。

 ASDは、脳機能の障害が主な原因と考えられ、15番染色体の遺伝情報に変異のある例が知られている。理化学研究所脳科学総合研究センターの 内匠たくみ 透シニア・チームリーダーらは、マウスの染色体にヒト同様の変異を生じさせたところ、鳴き声で母親と意思疎通するのが苦手であるなど、ASDに似た特徴が行動に表れた。

 そこで、脳の働きを詳しく調べた結果、脳幹にある「 縫線核ほうせんかく 」という部分の働きが低下し、ここで作られる神経伝達物質で、不安な気持ちを落ち着かせるなどの作用がある「セロトニン」の量が減っていた。このマウスの乳児期にセロトニンを投与すると、ASDに似た特徴が改善したという。成果は昨年6月、米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に発表された。

 また、ASDの人の遺伝子分析などから、発症に関与する可能性がある新たな変異も見つけ、昨年8月に論文を発表した。脳内で神経細胞のつなぎ目「シナプス」がうまく形成されなくなり、脳神経の情報伝達に支障が出るのではないかとみられている。

 内匠さんは「脳の様々な部位で遺伝子変異による機能障害が起き、ASDにつながる可能性がある。さらに詳しく調べたい」と言う。

         ◇

【発達障害】  自閉スペクトラム症のほか、読み書きや計算が苦手な「学習症(LD)」、衝動的に行動しがちな「注意欠如・多動症(ADHD)」などがある。症状のタイプや程度は一人ずつ違い、複数のタイプを併発することもある。

他人への信頼感高めるホルモン「オキシトシン」、効果を見極め

id=20180312-027-OYTEI50007,rev=6,headline=false,link=true,float=left,lineFeed=true

 険しい表情と口調で「良かったね」と言われた場合、多くの人は言葉を額面通りに受け取らず、「この人は敵対的だ」と感じる。だが、ASDの人は表情や口調をあまり気にせず、「良かったね」という言葉に引きずられ、「この人は友好的だ」と考えやすい。

 浜松医科大の山末英典教授らは、ASDの成人男性15人と、そうではない成人男性17人を対象に、ビデオに収めた相手の表情や口調、言葉から、その人が敵対的か友好的かを判断してもらう実験を実施。その時の脳の活動を機能的磁気共鳴画像(fMRI)で観察した。その結果、ASDの人はそうでない人に比べ、判断の際、「 内側前頭前野ないそくぜんとうぜんや 」と呼ばれる部位の活動が弱いことを突き止めた。この部位は様々な情報を統合して行動を調節する機能を担うとされている。

 山末さんらは、他人への信頼感を高めるとされるホルモン「オキシトシン」をASDの成人男性40人に点鼻で投与してみた。すると、内側前頭前野の活動が活発化。再びビデオの実験を行った結果、言葉よりも表情や口調から相手の心の内を読み取る行動が増えた。

 オキシトシンは、信頼関係を改善させる効果が十数年前に海外で報告され、注目を集めてきた。山末さんらは先月末、成人男性を対象に、オキシトシンでASDを治療する臨床試験(治験)を始めた。有効性だけでなく、副作用の有無など安全性も慎重に確かめる。オキシトシンは子宮を収縮させる作用もあるため、女性は今回の治験対象から外したが、山末さんは「有効性と安全性が確認できれば、将来的には女性や子どもにも使えるかどうかを検討する」と話す。

         ◇

【オキシトシン】  脳の視床下部で合成され、下垂体から分泌されるホルモン。日本では陣痛促進剤として臨床応用されている。海外では母乳分泌の促進剤としても使われる。

発達障害で孤立、支援の窓口を紹介

 ASDの原因は、研究が進んできたものの、依然、未解明の部分が多い。

 理研の内匠さんは「ASDには、様々な要因が複雑に絡み合っている」と説明する。例えば母親が妊娠初期に喫煙したり、妊娠中に有害物質を摂取したりすることで、子どもがASDになる確率が上がるとの報告がある。子どもが栄養不足だったり、ある種の腸内細菌がいたりすることも関連が指摘されている。

 ASDを含む発達障害の人は、学校や職場で人間関係につまずき、孤立することも少なくない。適切な支援を受けられるよう、親などが早期に気づくためのヒント、相談窓口などを、国立障害者リハビリテーションセンター「発達障害情報・支援センター」がウェブサイト(http://www.rehab.go.jp/ddis/)で紹介している。

 浜松医科大の山末さんは、「発達障害について正しい理解を広め、発達障害の人もそうでない人も共に暮らせる社会づくりを進めることがとても重要だ」と話す。

今日の健康レシピ

話題のキーワード