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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

診断力が試される古い病気 梅毒

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古くからある病気なのに標準治療薬がない

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 最近、東京の区議が、梅毒が増えたのは中国人が持ち込んだからだと、根も葉もない主張をツイッターでしました。

 実は、梅毒は昔から他国を中傷、おとしめるための道具として使われてきました。

 かつてドイツ人は梅毒を「フランス人の病気」と呼び、ロシア人は「ポーランド人の病気」と呼び、ポーランド人は「ドイツ人の病気」と呼んだのです(Tampa M, Sarbu I, Matei C, Benea V, Georgescu S. Brief History of Syphilis. J Med Life. 2014 Mar 15;7(1):4–10)。他国人を無根拠に中傷する悪癖は、どの国の専売特許でもないようです。ちなみに日本には15世紀に大航海時代の欧州から持ち込まれた可能性が高いです(苅谷春郎「江戸の性病」三一書房)。

 さて、梅毒の標準治療薬はベンザシン・ペニシリンと呼ばれる筋肉注射です。しかし、日本では現在この標準治療薬がないため、アモキシシリンなど治療効果がきちんと検証されていない、次善の治療薬で治療せざるを得ません。

 何世紀以上も昔から存在し、現在猛威を振るっている感染症の標準治療薬がない――。衝撃的な事実ですが、これが日本の現実です。(岩田健太郎 感染症内科医)

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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1件 のコメント

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梅毒の進化か、人間や社会の弱体化か?

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

岩田先生のように、大学教授という職業の方から、「古典的医局制度崩壊」という文言が出てくるのですから、時代の変化が加速しているということでしょう。...

岩田先生のように、大学教授という職業の方から、「古典的医局制度崩壊」という文言が出てくるのですから、時代の変化が加速しているということでしょう。

特に内科系は医局制度の外側でも実施できる学びが増えたので、そこを勘案できる医局と今までの権威や制度を振りかざすことしかできない医局との力関係も含めて、変質していくのではないかと思います。

梅毒が増える理由は、梅毒そのものの変化、感染経路の変化、宿主たる人間や動物の変化に分けられるでしょう。
バイオテロや特定人種差別的な発言は問題ですが、LCCにより人間の出入りが増えたり、海外作物の輸入が増えたり、医学の進歩や家庭内の浄化装置により守られすぎた身体が何らかの抵抗力を下げている可能性はあり得ます。

かかりつけ医や総合診療医の国家的推進は問題もありますが、一方で、カルテの統合により細分化されすぎた医療の弊害を洗い出してくれるかもしれません。
放射線診断科や感染症内科は厄介症例における皮膚から内臓各所までの統合した情報を目にする機会が多いですが、そういう目線を機器の進歩が補ってくれるということです。

特定臓器への治療が、結果として他の臓器へ悪影響を及ぼすことはあり得ることです。
偽膜性腸炎や広域抗生剤乱用によるアキレス腱断裂や耐性菌の出現のリスクなどを知っていれば、漫然とした薬剤の使用のリスクは分かりますし、それは抗生剤だけではないでしょう。
勿論、薬剤だけでなく、診断と治療のコストの見直しによって、医療が改善されるように誘導しないといけませんが。

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