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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち 松永正訓

医療・健康・介護のコラム

最後の1日まで笑顔で――13トリソミーの子(2)支える医師と見放す医師

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 妊娠8か月頃、超音波検査で赤ちゃん(心太君・仮名)は、発育が遅れていると産科の先生から言われました。しかし、それ以外の異常を指摘されることはありませんでした。骨盤位(逆子)のため、心太君は帝王切開で誕生しました。生まれると、心太君の呼吸状態は悪く、心臓には先天性の病気があることが分かりました。

寝返り、笑顔、ゆっくりと歩み

 小児科の先生たちは染色体検査をおこないました。結果は13トリソミーでした。両親は、短命の宣告を受けます。心太君には内服薬が投与され、心臓の働きは徐々に安定しました。生後3か月で退院し、自宅で暮らすようになりましたが、無呼吸発作をくり返しました。発作はほとんど毎日のように起こり、救急車を呼ぶこともありました。この状態が1歳まで続きます。

【名畑文巨のまなざし】広汎性発達障害のSちゃん(その1) 彼女、見た目からは分かりませんが、広汎性発達障害で自閉傾向があります。どうやってコミュニケーションを取ればいいのか、すごく悩みました。いつもの撮影のように「あやして撮る」やり方が通用せず、最初は彼女がやりたいようにやるのを、ただ追っかけているだけでした。でも、あることをきっかけとして、一気に距離が縮まることに。京都府にて(続く)

【名畑文巨のまなざし】
広汎性発達障害のSちゃん(その1) 彼女、見た目からは分かりませんが、広汎性発達障害で自閉傾向があります。どうやってコミュニケーションを取ればいいのか、すごく悩みました。いつもの撮影のように「あやして撮る」やり方が通用せず、最初は彼女がやりたいようにやるのを、ただ追っかけているだけでした。でも、あることをきっかけとして、一気に距離が縮まることに。京都府にて(続く)

 2歳を過ぎると、少しずつ成長も見せるようになります。寝返りをうつ。笑顔をみせる。そういう歩みがありました。しかし、おう吐がよくあり、吐いたものを気管に吸い込む 誤嚥(ごえん) をしてしまうこともありました。4歳の時に、胃にチューブで栄養を注ぐ「胃ろう」の造設手術をおこなうと、嘔吐が一気に減って誤嚥をすることもなくなりました。ただ、時々、 胆のう炎や尿路感染症になって入院しました。

 7歳頃から心臓の働きが低下し、心不全の状態に陥りました。不整脈が出現し、 むくみと脱水をくり返しました。腎不全を引き起こしたり、原因不明の吐血をすることもありました。入退院を頻繁にくり返し、体の中に入れる水分の量を細かく調整しました。

 7歳10か月、心太君は自宅で突然、大量に吐血しました。大急ぎで救急車を呼び、心太君を病院に搬送しました。到着時には意識は残っていましたが、その後、急激に血圧が下がり、心停止の状態になります。母の胸に抱かれて心太君は息を引き取りました。

限りある時間を生き切ったわが子

 限りある時間を生き切るということについて、両親は多くのことを考えさせられたそうです。心疾患という見えない病を抱えた心太君に対して、生まれたばかりの頃は、焦りやいら立ちを覚えて親自身が病みそうだったといいます。何を支えに乗り越えることができたのでしょうか?

 それは心太君の成長する姿です。けらけら笑ったり、両親の腕の中で安心して眠ったり、そうした心太君の豊かな表情を見ると、何としてもこの笑顔を守ろうと頑張ることができたといいます。

 心太君を失ったことは、悲しみというよりも、強烈なむなしさでした。母親はいまだにそのむなしさと闘っています。ただ、「最期まで自宅で過ごせたのは幸せだったのかな」と、少しずつ思えるようになっています。現在は、最後の1日まで笑顔でいられた心太君を、誇りに思っています。

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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは 歴史は必ず進歩する!

名畑文巨(なばた・ふみお)

大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは 写真家名畑文巨の子ども写真の世界

名畑文巨ロンドン展報告

ギャラリー【名畑文巨のまなざし】

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6件 のコメント

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曇りや雨空さえも美しいと思える日

エンジェル

重度の障害を複数抱える子供と深く関わった私の経験です。Aちゃんは話すことができませんでしたが感情がありました。友達に意地悪をされると嫌がって職員...

重度の障害を複数抱える子供と深く関わった私の経験です。Aちゃんは話すことができませんでしたが感情がありました。友達に意地悪をされると嫌がって職員に助けを求めにきました。保護者がくると喜んで駆け寄りました。

助けを求めにきたAちゃんを抱き寄せると私は不思議と心が穏やかになり、癒されるのでした。他の職員も同様でした。Aちゃんには誰かに意地悪をしたりする邪気が無いからなのだと思いました。私はその時、どんな人間にも生まれてくることには意味があり、使命があるのだと気づきました。障害のある人や子が全て善人だとは思いません。しかし、健康に生まれず、子孫を残せない人には価値がないのでしょうか?私はそうは思いません。

また、100パーセントの確率で健康な子を授かることは難しいという現実を知り、障害とどう向き合って生きていけば良いのかを知るには良い連載だと思います。

しかし、医療者がベストをつくすとは無理のない範囲でということです。自分の心身を犠牲にしてまでする必要はないと思います。その為には医療職が足りていない状況を改善し、欧米にならい受診システムを変える必要があると思います。

健康に生まれても親の愛に恵まれない子もいます。13トリソミーでもご両親に愛された心太君の短い人生は満たされていたのではないかな。

幼い子供を亡くした身内の悲しみは何年経っても消えないかもしれません。亡くした直後は下や後ろを振り返るばかりかもしれませんね。辛い時は空を見上げて、お子さんとの良い瞬間を思い出してみて下さい。曇りや雨空さえも美しいと思える日がきっとくるはずです。辛くても人生は続いていきます。残された方が幸せに生きられることをお祈りしています。

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字数制限と複雑性の問題

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

仰る通りです。 全体主義は必ず全体主義的優生思想ではありません。 しかし、どこかそういう発想と繋がっています。 区別と差別の境界が不明瞭な事と似...

仰る通りです。
全体主義は必ず全体主義的優生思想ではありません。
しかし、どこかそういう発想と繋がっています。
区別と差別の境界が不明瞭な事と似ています。
そして、その為に暴走を招きやすいのです。

今までのコメント欄を見ていても、コウノドリさんはそれを分かって書いてらっしゃるのでしょうが、多分、読んだ人の日本語や医療の理解によってはそうは受け取られないと思いました。

こちらも不快な感情を感じさせたのであれば申し訳ありません。

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自主決定権

コウノドリ

コメント欄で論争しようとは思いませんが、全体最適の例えはナチスドイツの全体主義的優生思想を意味するものではありません。 医師ならば東大病院エホバ...

コメント欄で論争しようとは思いませんが、全体最適の例えはナチスドイツの全体主義的優生思想を意味するものではありません。
医師ならば東大病院エホバの証人事件は常識のはず。信仰に従い手術中の輸血を拒否したにもかかわらず行ったとして患者から東大病院が損害賠償を請求された事件、患者の自主決定権が治療に優先するとして最高裁で病院側が敗訴しましたね。
医学にとって最適な行為も患者の人生の価値においては絶対上位ではありません。

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