防げ 若者の自殺
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[防げ 若者の自殺](5)遺族「命の大切さ」講演…親が自助グループ、思いを語り合い発信
「どんなにつらい過去でもなかったことにはできない。悲しみは乗り越えるものではなく、一生抱えていくもの」。子どもに先立たれて苦しむ親たちに、南山みどりさん(64)が優しく語りかける。自死で子どもを亡くした親の集い「あんじゅ」。月1回、横浜市内で語り合いの会を開き、十数人が参加する。
代表の南山さんは1996年、次男(当時21歳)を亡くした。暴走族とのトラブルに巻き込まれた子どもらを助けたことで、次男は逆恨みされ、リンチを受けて大けがをした。警察への相談後も「家族にも報復する」と脅され、次々トラブルに巻き込まれた。
「しっかりしなさい!」と
神奈川県の女性は、いじめを受けていた高校1年の長男を12年に自死で亡くした。インターネットで「あんじゅ」の存在を知り、「わらをもつかむ思い」で参加。同じような立場の人に囲まれ、安心して胸中を話すことができた。
「自死に対する偏見は根強い。『子どもを死なせた親』と言われ、どんなに頑張っても自分の存在を否定されているような感じがして、人と関わるのがつらい。ここは本音を語って思い切り泣くことができ、素の自分になれる」と打ち明ける。
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こうした自死遺族の自助グループの先駆けは、仙台市の田中幸子さん(68)の「藍の会」だ。
警察官だった田中さんの長男(当時34歳)は05年、大きな交通事故を担当し、長時間労働の末、自死した。遺族同士が思いを語り合うと心が落ち着いたことから、田中さんは06年に「藍の会」を設立。さらに08年、「全国自死遺族連絡会」をつくると、各地で自助グループが誕生した。
連絡会代表理事として、全国約40団体約3200人の会員が情報を共有できる場をつくり、「全国自死遺族フォーラム」を毎年開催。昨年改定された自殺総合対策大綱の検討会委員も務め、遺族の声を発信し続ける。「目標は自死をなくすこと」と強調する。
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子どもや若者の自殺防止に取り組む遺族もいる。
川崎市の篠原真紀さん(51)は10年、当時中学3年の次男、
「息子の死を無駄にしてはいけない」。篠原さんは、夫とともに全国の学校などで、いじめの悲惨さや命の大切さを訴える講演活動を始めた。昨夏には一般社団法人「ここから未来」を設立、さらに活動に力を入れる。真矢君は生きていれば、現在22歳。「同じ悲しみが繰り返されない社会にしたい」。遺影を前に決意を新たにした。
(おわり)
(栗原渉、竹之内知宣が担当しました)
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【 自死 】 亡くなった人の尊厳を守り、偏見をなくしたいとの思いから、遺族の多くは「自殺」を自死と言い換えるよう求めている。島根、鳥取県など公文書の表現を原則として自死に統一した自治体もある。
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自死遺族を支援する団体には、 全国自死遺族連絡会 や、 全国自死遺族総合支援センター などがある。
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