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防げ 若者の自殺

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[防げ 若者の自殺](4)いじめの兆候見逃さない…「我慢せずSOS」指導、専門教員を配置

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[防げ 若者の自殺](4)いじめの兆候見逃さない…「我慢せずSOS」指導、専門教員を配置

小学6年生らに「一人で悩みを抱えず、大人に相談して」と呼びかける保健師たち(東京都足立区で)

 「嫌なあだ名を付けられる、人前でからかわれる、無視される……。そんなことをされた経験はありませんか?」。東京都足立区内の小学校で2月8日、保健師が6年生約60人に語りかけた。「これらはいじめの可能性があります。一人で我慢せず、信頼できる大人に相談して」

 足立区が区内の学校で行っている特別授業「自分を大切にしよう」の一コマだ。いじめ防止と連動した自殺予防教育で、悩みがある時や友人が悩んでいる時、どうSOSを出すかを教える。こうした「SOS出し方教育」は注目を集め、国が2017年に改定した「自殺総合対策大綱」でも推進することが明記された。

 11年に市立中学2年の男子生徒がいじめ自殺した大津市は13年度以降、いじめの兆候を見逃さないための専門教員を、市内のほぼ全ての小中学校に配置した。市が16年度に認知したいじめの件数は12年度の6倍超となった。市は「件数の増加は、いじめを早期にきちんと把握した証拠。そこから解決に導けば、重大な事案の発生を防げる」とする。

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 こうした取り組みが広がる中でも、いじめ自殺は後を絶たない。文部科学省の「問題行動調査」では、16年度に自殺した児童生徒でいじめが原因に含まれたのは10人(速報値)。前年度より1人増えた。

 子どものSOSを受け止めるべき学校側の姿勢に問題のあるケースもある。仙台市では14年秋から17年春までに、いじめを受けていた市立中学の男子生徒3人が相次いで自殺したが、3人目の事例では、生徒への教諭2人からの体罰が発覚。文科省は「体罰がいじめを助長した可能性がある」と非難した。

 三重県のパート女性(25)は中学1年の1年間、同級生の女子らから物を投げられるなどのいじめを受けたが、教師は止めてくれなかったという。「先生は忙しいので、なるべく関わりたくなかったのではないか」と振り返る。

 体験学習を中心とした教育を実践する学校法人「きのくに子どもの村学園」(和歌山県)理事長の堀真一郎さんは、「教師は授業だけでなく書類作成や部活指導などに追われている。子どもにしっかり向き合い、心を通わせなければ、いじめをなくすのは難しい」と指摘。「時間や裁量を与え、子どもの教育についてじっくり考えられる環境を整えるべきだ」と提言する。

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 13年に成立した「いじめ防止対策推進法」は、いじめ自殺が疑われるなど重大事態では、教育委員会などに調査組織の設置を義務化した。調査の徹底が新たな自殺防止につながるとの考えだ。ただ、うまく機能しない例もある。

 東京都教委の調査組織は昨年9月、15年9月に自殺した都立高校1年の男子生徒の理由として、「いじめがあったと判断するのは困難」とする報告書をまとめた。遺族側はただちに再調査を求め、いじめとの関連を認めたNPO法人の独自報告書も提出した。

 再調査を決める権限は知事にある。高校生が自殺した山口、鹿児島両県では、知事が昨年12月、遺族の要請後約2週間で再調査を決めた。

 だが、都は再調査すべきかどうかの検証を大学教授ら外部に依頼。昨年11月以降、7回の会合を重ねたが、結論はまだだ。男子生徒の遺族は「息子が生きていれば、来月が卒業式。知事は早く再調査をしてほしい」と訴える。

 自殺した生徒の無念さ、遺族の苦しみに寄り添う姿勢が、行政と教育現場には欠かせない。

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 相談先としては、「24時間子供SOSダイヤル」(0120・0・78310)や、「子どもの人権110番」(0120・007・110)などがある。

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