文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

社会

社会

[防げ 若者の自殺](3)居場所を作り自立後押し…対象者の友人、恋人もサポート

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
[防げ 若者の自殺]居場所を作り自立後押し…対象者の友人、恋人もサポート

1日1回は入居者の状況を確認する西隈さん。グループホームの交流室から、部屋にいる若者に電話することも(東京都内で)

 「おはよう。具合はどう?」。東京・多摩地区のアパートを利用したグループホーム「キキ」で、NPO法人「東京フレンズ」理事長の西隈亜紀さんが入居者に声をかけた。

 キキは、障害者総合支援法の「共同生活援助」という福祉サービスに基づいて運営する施設。精神疾患や発達障害などがある19~30歳の男女6人が個室で暮らす。リストカットや大量服薬など自傷行為や自殺未遂の経験者もいる。毎朝、作業所などに出かける前に、西隈さんらスタッフのいる「交流室」に顔を出すことが決まりだ。連絡がない場合、スタッフが電話などで安否確認する。

 西隈さんは精神科病院のソーシャルワーカーとして10年以上働いた。そこで見たのは、心のケアが必要な10代の若者が自宅に帰ることもできず、「社会的入院」を余儀なくされている現実だ。「児童養護施設も障害者施設もこうした若者の受け入れに消極的で、退院させたくても、安心して暮らせる『住まい』が見つからない。ならば自分で作ろう」と、2013年にキキを設立した。

 現在の6人の入居時の平均年齢は21歳。入居期間は最長3年間。その間、不安や寂しさを訴える若者の声に耳を傾け、一緒に食事するなどして信頼関係を作り、自立した生活ができるよう支援する。これまでに8人が退去し、多くは一人暮らしを続け、結婚した人もいる。「心のケアが必要なのに行き場のない若者は多い。彼らを受け入れる施設が他にも増えてほしい」と西隈さんは話す。

          ◇

 夜の街をさまよう女子中高生らの支援を続けている一般社団法人「コラボ」は、15年に緊急避難的な「一時シェルター」を、16年には「中長期シェルター」をそれぞれ設けた。虐待や性暴力被害を受けるなどして帰る場所をなくした少女らが宿泊している。

 代表の仁藤夢乃さんは高校時代、家庭の事情から自宅に帰れず、東京・渋谷の街をさまよった経験がある。「居場所がなく『死にたい』『消えたい』と話す女子中高生も、暖かい部屋でご飯を一緒に食べながら話をすると落ち着くことも多い。若者の自殺を防ぐには、信頼できる大人の存在と、安心できる居場所が必要」と強調する。

          ◇

 心のケアが必要な人を身近で支える友人や恋人のサポートも重要だ。NPO法人「ライトリング」は、支え手を対象にした講座を開き、支える相手との適度な距離感や傾聴の仕方などを教える。

 茨城県の男性(30)は5年前にこの講座に参加した。一緒に暮らす交際相手の女性(31)はうつ症状があり、男性が仕事で疲れて寝ている間にリストカットをすることもあった。「彼女を支えたいが、このままでは共倒れになってしまう」と悩んだ。

 男性は講座で、同じ境遇の人たちと接し、励まされた。また、代表理事の石井綾華さんから「自分の全てを犠牲にせず、できることとできないことをはっきり伝えた方が適切な距離感を保てるようになる」などと言われ、肩の荷が下りたという。その後、2人は結婚し子どももできた。

 居場所作りや寄り添いなど自殺の防止活動に取り組む民間団体の存在は貴重だ。ただ、自殺総合対策東京会議座長で精神科医の大野裕さんは、「多くの団体は資金や人手が足りず、十分に活動できていないのが現状だ」と指摘。「行政は財政面でも人材面でも、より積極的にサポートする必要がある」と訴える。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

社会の一覧を見る

最新記事