心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
【患者学(2)】「薬を出してくれない」「薬を勝手にやめる」…患者と医師、埋まらない溝
私の専門である神経眼科や心療眼科の分野では、患者がこれまでに使用した薬を確認することが、とても重要です。
理由の一つは、眼球に起きている症状が、さまざまな自己免疫疾患や全身の難病によるものかも知れないからです。眼球や視覚に影響する薬を使用していれば、症状の原因を追究してゆくのに非常に大きな手がかりになります。ですから、私の外来では必ずといってよいほど、患者の服薬歴を聞きます。
すると、高齢の患者が、複数の医療機関から各々数種の薬を処方されていて大変驚かされることがあります、中には15種類以上というケースまであります。
似た作用の薬が重複していたり、必ずしも治療上重要ではないものが漫然と処方されていたりします。
ただ、服用の指示をしっかり守っている人ばかりでもなく、自分勝手に、あるいは結果として取捨選択しているケースもよくあります。
医師の方針に賛同しなければ治療を始めない…「アドヒアランス」の推進
20年あまり前でしょうか。これも欧米の考え方を後追いする形になりますが、患者が医師の治療方針にきちんと従っているかを問う時に「コンプライアンス」という用語が使われるようになりました。直訳すれば「順守」です。薬を自分で取捨選択しているような人は「コンプライアンスの面で、悪い患者」ということになります。
2001年にWHO(世界保健機関)が、コンプライアンスではなく「アドヒアランス」を推進する、という方向性を打ち出すと、今度は、この新たな言葉が流行りだし、日本の学会でもよく聞かれるようになりました。「アドヒアランス」の元の意味は「付着」です。医師と患者が意思疎通できるまでの「距離」が短い、あるいは両者の心が接している状態を想定しています。コンプライアンスのように、医師の方針に従うかどうかではありません。
つまり、「アドヒアランス」とは、医師の方針を理解した上で、その方針にしっかり賛同して治療を始めるというものです。賛同しなければ始められないのですから、患者が治療方針の決定に関わる点で、コンプライアンスとの違いが明確です。
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