防げ 若者の自殺
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[防げ 若者の自殺](2)電話よりLINE相談増加…文字だけ、悩み把握に課題も
「何もやる気が起きなくて……。親が死んだら、どうやって生きていけばいいのか、すごく不安です」「ご両親以外に相談できる親戚や知人はいますか」――。
無料通信アプリ「LINE」によるチャットが進む。東京都内で今月11日に開かれた、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を活用した若者の悩み相談に関する研修会。約50人の参加者は若者役と相談員役に分かれ、LINEでやりとりした。
自殺対策強化月間の3月、厚生労働省はSNSによる若者の悩み相談事業を、全国13の民間団体に委託して初めて実施する。研修会は、この民間団体に向けて行われた。
文部科学省も2018年度、SNSを活用した子どもの悩み相談事業を行う。都道府県や政令指定都市など計25自治体を対象に費用を助成する。
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国がこうした事業を推進するのは、SNSを日頃利用する現代の若者にとって、電話よりも相談の受け皿になりやすいからだ。例えば、「日本いのちの電話連盟」に加盟する全国49の団体に、16年に寄せられた電話のうち、30歳未満の相談は全体の1割に過ぎなかった。
一方で、SNS相談の効果は既に一部で確かめられている。長野県が昨年9月、LINE社と協力し、県内の中高生を対象にLINE相談を2週間行ったところ、547件の相談があった。県教委の電話窓口で1年間に受ける子どもからの相談件数の2倍強に上った。
大津市も昨年11月以降、全市立中学校の生徒向けにいじめなどのLINE相談を導入。1日当たりの相談件数は既存の電話窓口の約10倍だ。
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課題もある。表情も見られず、声も聞けないSNS相談で、悩みを十分に把握できるのかという点だ。
厚労省の17年版自殺対策白書によると、30歳未満の自殺原因や動機では、精神疾患などの「健康問題」が最多。職場の人間関係や仕事疲れといった「勤務問題」、進路の悩みなどの「学校問題」も目立ち、これら複数の要因が絡み合って自殺につながることも多い。こうした複雑な悩みを、文字だけのやりとりでうまく引き出し、軽減させるのは簡単ではない。
SNS特有の注意点もある。電話相談などでは、相手の悩みに共感するような受け答えが有効とされる。だが、11日の研修会の講師を務めた公益財団法人関西カウンセリングセンター(大阪市)の臨床心理士、宮田智基さんは「SNSの場合、『つらい』という訴えに『つらいんですね』などと返すと、相手をかえっていら立たせることもある」と指摘。「相手の感情を反射的に繰り返すより、対話をリードする質問が有効」と助言する。
大津市のLINE相談に関する検証会議座長を務める佛教大学教授の原清治さん(教育社会学)は、「勇気を出して相談しても対応が満足できなければ、もう相談して来なくなる。SNSは各種相談窓口への入り口。電話や対面での窓口に導けるスキルを持った相談員の育成が急務だ」と訴える。
SNS自殺防止相談窓口…厚労省初、民間13団体に委託
厚生労働省は2月27日、3月の自殺対策強化月間に実施するソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを使った相談事業の窓口を発表した。
若者の自殺を防ごうと、厚労省が民間の13団体に委託して初めて行う相談事業。団体名や3月1日以降の相談可能日時などは、 厚労省の自殺対策のサイト で紹介している。
13団体の大半は、無料通信アプリ「LINE」を利用する。その一つ、全国SNSカウンセリング協議会の相談窓口には、指定のQRコード=下=からアクセスすることができる。
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