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医療部発

医療・健康・介護のコラム

「18か月の命」難病の結唯ちゃん、新薬で迎えた2歳の誕生日

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「俺一人でも育てる」…父の熱意

 反対に、夫の敦史さんは治療に積極的でした。夫婦の話し合いは平行線をたどり、毎日のようにけんかの繰り返し。敦史さんは離婚さえ口にし、「俺一人でも育てる」と譲りませんでした。

 敦史さんの熱意に促され、一緒に医師から説明を聞いた加藤さん。「可能性があるなら、信じよう」。ようやく前向きな気持ちになり、治験への参加を決めました。

 それから2年近くが過ぎ、結唯ちゃんは物を握れるようになったり、自力で座ったりと、だんだん元気になっています。「新しい治療で運命が変わった」。加藤さんは、結唯ちゃんをいとおしそうに抱きしめました。

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安藤記者(左)と2人の妹をイメージしたイラスト(児玉恵理子さん画)。難病で亡くなった上の妹、奈美さん(中央)も元気な姿で描かれている

絵の中の「元気な姿」…難病だった妹、記者の「願い」

 加藤さんの話を聞きながら、私は自宅に飾ってある絵のことを思い出しました。私と2人の妹が、母の作ったお弁当をめがけて野原を駆けている絵です。イラストレーターの女性に描いてもらいました。

 でも、絵の中にいる妹の姿は「本物」ではありません。上の妹・奈美は、「レット症候群」という難病で、生まれつき歩けず、寝たきりでした。 胃瘻いろう をしており、栄養は胃に直接、チューブで入れていました。2016年11月、25歳で亡くなりました。

 写真を飾る気にはなれず、代わりに絵に願いを込めました。私と家族は、病気であることも含めてありのままの妹を愛してきたはずなのに、絵には元気な姿を描いてもらうなんて矛盾しているようで、後ろめたさもありました。

最初から「障害児の親」ではない

 取材の途中、加藤さんに妹が難病であったことを話し、自分の気持ちを打ち明けました。「『妹が健康に生まれていたら』と考えることは、母に悪いと思っていました」

 すると、加藤さんは「元気でいてほしいと思うのは、本能的なものだもの。わかりますよ」と言って、一緒に涙を流してくれました。

 妹とおなかいっぱいご飯を食べたかった。「お姉ちゃん」と呼んでくれていたら、どんな声だったんだろう。それでも、そのまんまの奈美がかわいくて、大好きだった。

 加藤さんの言葉に、相反するものと感じていた考えが、どちらも素直な気持ちなのだと受けとめられるようになりました。私の両親も、最初から「障害児の親」だったのではなく、加藤さんのように葛藤し、時間をかけて妹を愛していったのだと思えました。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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難病の命は社会とどう繋がるか 創薬と奇跡

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

医師でさえよく知らない難病やその新薬というのはとても不思議なものです。 医療インフラの労働環境の改善のために資金流入や法改正を行って欲しいと思う...

医師でさえよく知らない難病やその新薬というのはとても不思議なものです。
医療インフラの労働環境の改善のために資金流入や法改正を行って欲しいと思う一方で、創薬の価値もわかります。

単純な命の数の問題では、自己責任感や自助努力の不足で片づけられがちな五体満足な子供の貧困や教育の問題の方が、平凡な命の方が、低コストで効率が良いのですが、一方で、日本の技術やサービスでしか救えない命とは命そのものではなく、労働の価値、企業や研究者の付加価値=日本の国力として判断されます。

そして、様々な種類の環境汚染や軍事的なリスクを考えれば、労働や技術の価値は天然資源などの非サービスの財以上に価値が上がる可能性があります。

そういう意味では、無自覚にバブルに乗っかって、安易に奇跡の物語にしていないのが凄く良いと思います。

ちなみに、癌細胞とは過酷な環境で生き残る奇跡の細胞でもあります。
癌のリスクとは癌の持つ強靭さの裏返しです。
しかし、その奇跡の細胞が増えて全体のバランスを崩せば人は死に至るわけです。
そういう対比構造が自然に発生するのも、人間社会と自然界の奇跡かも知れません。

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