精神科医・内田直樹の往診カルテ
yomiDr.記事アーカイブ
交通事故の後遺症 せん妄状態の原因を絶つ
車にはねられ認知症に

福岡県在住のAさん(71)は、元警察官です。真面目で責任感が強く、現役時代は同僚から頼りにされる存在でした。2人の子どもを育て上げ、定年退職後は妻と一緒の登山と温泉巡りが楽しみでした。
ところが昨年5月、日課の早朝散歩中に飲酒運転の車にはねられ、脳挫傷と外傷性くも膜下出血の重傷を負いました。緊急搬送された病院で手術を受けたものの、左半身の 麻痺 、高次脳機能障害(記憶障害、集中力の障害、意欲の低下など)や 嚥下 障害などの重い後遺症が残りました。
Aさんは、3か月間リハビリした結果、歩行器を使って歩けるようになりました。しかし、自力での 排泄 や着替えができず、妻と2人での生活は難しいとみなされ、特別養護老人ホームに入所しました。
興奮状態で施設での生活が困難に

ところが、施設に入ったAさんは「こんなところに閉じ込めて何をする気だ!」「俺は県警のAだぞ!」「仕事に行く!」「部屋に知らない男が入ってくる」などと興奮することが多くなり、夜中も大声を上げ続けました。介護者に暴力もふるい、施設職員では対応しきれない状態となりました。
Aさんは、以前、入院中に鎮静剤の服用で誤嚥性肺炎を起こしたことがありました。そのため、家族は薬を使いたいという施設の提案を拒否。結局、施設を出たAさんは、妻と一緒に息子夫婦の家に同居することになりました。
家族は、近くの内科クリニックに訪問診療を依頼しましたが、Aさんが初診時にひどく興奮して血圧も測らせなかったため、医師から診療を拒否されてしまいました。そこで、ケアマネジャーを通じて当院に依頼があったのです。
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2018.3.1のコラムを拝見致しました。某精神病院が母体の老健勤務の看護師です。昨年夏京都府から引っ越してきたのですがビックリしたのが、睡眠薬や精神安定剤・認知症薬を飲んでいないひとの方が少ないことです。そこのやり方があるので、仕方ないですが80床のうちの40床の認知症専門棟に勤務しています。引っ越す前の関西でも老健勤務でしたが、飲まなく良い内服を担当Drが整理してくれていたので、全く飲まなくても済んでいるひとも多数いました。そこも勿論認知専門棟です。今の老健は入所したまんまの薬を、ズーット服用していることです。先生のコラム通り最小限の内服の整理を、うちの施設長にもしていただきたいのですが、10年以上もそれできたので新参者には難しい問題です。
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肉体と精神の損傷と社会要因の変化に向合う
寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受
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事故そのものによる自立度の低下やPTSD、入院という非日常の経過(ICU症候群との兼ね合いも)、事故による離職やその後の退職による社会状況の変化に対する本人の認識と希望の乖離が複雑に絡み合い、さらに各種薬剤の影響が重なるので、医師もご家族さんも、何より本人さんも大変じゃないかと思います。
「県警にこんな奴はいない」とお怒りになったのは認知の低下のせいかもしれませんが、ある日突然に重症患者でなった状態への否認の可能性もあります。
(あるいは、事故の際に退役からそれまでの記憶が一時的に抜けたのかもしれませんが、心が耐えがたい肉体の変化を守るために錯覚を促している可能性。)
そして、入院時の一過性のストレスのコントロールのために必要であった薬剤が慢性期に副作用の方が強くなる可能性もあります。
精神科疾患の薬剤の肉体への作用も、身体疾患への精神への作用も知られていますが、なかなかにさじ加減は難しいですね。
こうやって、文章を見て、文章で返すのであれば、分かりやすいですが、時系列の変化に合わせた薬剤の判断や患者さんやご家族、医療スタッフへの説明も含めると大変だと思います。
今後かかりつけ医レベルでの内科でも睡眠薬の処方は重要になってくると思いますが、その前に本人や家族の話や心理社会的要因の理解が大事になるのかなと思います。
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