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介護・シニア
介護報酬改定(中)「生活援助」小幅下げ
事業者の経営配慮 「家事代行」批判の中
4月に行われる介護報酬改定では、ヘルパーが高齢者宅を訪ねる訪問介護が見直されることになった。訪問介護のうち、掃除や調理を行う「生活援助」について、事業所が受け取る報酬をわずかに引き下げる一方、入浴や食事を介助する「身体介護」の報酬は引き上げる。メリハリをつけることで、高齢者に、住み慣れた地域で自立した暮らしを続けてもらう狙いがある。
■自宅暮らしの支え
東京都豊島区の女性(85)は約3年前から週2回、訪問介護事業所「ケアフレンド豊島」のヘルパーに、買い物や自宅アパートの掃除を頼んでいる。「転んで腰を痛めてからは出歩くのも大変。ヘルパーのおかげで、一人暮らしを続けられます」と話す。
訪問介護には主に、生活援助と身体介護がある。女性が利用しているのは生活援助。45分間のサービス提供で、訪問介護事業所の得られる基本報酬は現在、2250円だが、4月から20円減る見込みだ。今回の改定で、生活援助は「家事代行にすぎない」との批判を受け、報酬が下げられた。これに伴い、利用者の自己負担(1割)も2円減る。
ただし、掃除や調理などをヘルパーが利用者と一緒に行う場合は、「自立に役立つ」という理由で、身体介護として報酬を算定できることが示された。身体介護の基本報酬は、30分以上1時間未満の場合、60円上がる。
生活援助の基本報酬は、今回の改定で大幅にカットされる可能性もあった。小幅な引き下げに落ち着いたのは、「介護人材の不足が深刻な今、給与の原資となる報酬のカットは避けるべきだ」との声が、現場から相次いだからだ。
同社の岸川和文社長(51)も、「大きく減らされていたら、事業を続けられていたかどうか……」と胸をなで下ろす。ただ、これまで生活援助として行っていたサービスを、利用者と一緒に行う身体介護に切り替えるのは難しそうだ。二つの基本報酬が約1700円も違うためだ。「利用者には大幅な負担増になる。納得する人は少ないだろう」と話す。
■「使いすぎ」は是正へ
生活援助には、「過剰に利用されている」との批判もある。そこで、適正なサービス利用につなげる仕組みも新たに作られる。頻繁な利用について、市区町村がチェックし、不適切と判断すれば是正を促す。
厚生労働省の調査では、生活援助の利用者は約49万人で、1人当たりの利用回数は平均で月約11回。ただ、月31回以上使う人も約2万5000人おり、中には月100回以上というケースもある。厚労省は4月、「頻繁な利用」にあたる回数の基準を示す予定だ。
生活援助の担い手拡大も図る。現在、ヘルパーの資格を取得するには130時間以上の研修が必要だが、60時間程度の研修を受ければ、生活援助に限って従事できるようにする。
狙いは、効果的な人材活用だ。介護福祉士は専門知識を持つ国家資格だが、訪問介護事業所で働く介護福祉士の約7割がほぼ毎日、生活援助に携わっているとの調査もある。全国に推計約195万人いる介護職は、25年に約38万人も不足する見込み。研修の簡略化で多様な人材を呼び込み、介護福祉士が、身体介護など専門知識を生かした業務に集中できるようにする。
通所でのリハビリに手厚く
高齢者が施設に通って食事やレクリエーションなどを行うデイサービス(通所介護)については、リハビリに取り組む事業所の報酬を手厚くし、自立支援につなげる。
例えば、車いすからベッドへの移動や着替えなど、日常生活を送る上で必要な身体機能が維持・改善された人が一定以上いた事業所には、報酬を加算する。理学療法士や言語聴覚士などの専門職と連携して、利用者の機能訓練に努めた場合にも報酬を加算する。
一方、基本報酬は減らす。下げ幅は大型施設ほど大きい。規模が大きいと効率的に運営できるため、利用者1人当たりの経費が抑えられ、利益を確保しやすいとされたからだ。例えば、毎月の利用者が延べ901人以上いる施設に通う高齢者(要介護2)の場合、1回7時間の利用で基本報酬は7420円から7030円に下がる。これに伴い、利用者負担(1割)は39円減る。
<訪問介護> 介護保険で提供される在宅介護の中核となるサービス。主に、ヘルパーが家事を行う「生活援助」と、入浴や食事、トイレを介助する「身体介護」に分かれており、利用者は全国で計約195万人(2016年度)。介護の必要度が低い人ほど生活援助を、高い人ほど身体介護を利用する傾向がある。
(板垣茂良)
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