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糖尿病の人工透析減らす…高リスク患者絞り込み
高額な医療費がかかる人工透析を減らそうと、予備軍である糖尿病の患者を早めに見つけ、予防する取り組みが全国の市町村で始まっている。中でも愛媛県八幡浜市は、健診データを生かし、治療や保健指導の対象者を効率よく絞り込むことで成果を上げている。

■腎機能に着目
松山市から南西に70キロの八幡浜市は、漁業が盛んな人口3万5000人の港町。国民健康保険(国保)の医療費に占める糖尿病治療費の割合が高い。
同市は、市立八幡浜総合病院(256床)や地元医師会と連携し、2012年度から、特定健診(メタボ健診)や通院時の検査結果を集めて糖尿病患者すべての状態をデータベース化。症状の進行度を把握し、対策に生かしている。
特に、腎機能のデータに着目した対策が特徴だ。糖尿病は腎症を合併することも多く、透析患者の4割は糖尿病性腎症が原因。自覚症状がほとんどなく、気付いた時には重症化していることが多い。
同市では、腎機能の目安となる「eGFR」という数値について、3回以上の検査結果をもとに専用ソフトで低下率を計算し、その患者に透析が必要になる時期を予測。それが5年以内である患者を対象として絞り込む。
「より高リスクの患者を選んで集中的に治療と保健指導を行うのがポイント」と、同病院内科部長の酒井武則さんは説明する。
治療には血糖値を下げる薬を使うが、単に数値を下げるだけでなく、腎臓を保護する効果も期待できるタイプを選んでいる。
■減塩指導が柱
保健指導は減塩が柱で、保健師が患者宅を訪問し、食事内容から塩分量を推定する方法などを指導する。塩分の過剰摂取は腎症を悪化させ薬の効き目を弱めるため、1日6グラム未満を目標としている。
同市によると、把握できた高リスク患者は、14年末で89人。保健指導を受けた22人のうち、15~17年度のいずれかの時点で透析が必要になると予測された患者は16人だった。しかし、実際にそうなったのは17年末で4人に抑えられた。
透析にかかる医療費は1人分で年500万円とされており、この取り組みにより、単純計算で1億円以上を減らすことができたという。今後は、保健指導を受ける高リスク患者を増やすことが課題だ。
この手法を考案した日本慢性疾患重症化予防学会の代表理事で、元千葉県立東金病院長の平井愛山さんは、「透析予防には、血糖管理だけでなく減塩も重要。医師や保健師の数が少ない地域でも、対象者を絞れば効率よく成果を上げられるはず」としている。
年1.6兆円 莫大な医療費
人工透析の患者は30万人を超え、年間1.6兆円という 莫大 な医療費が費やされている。国保を運営する市町村にとって、糖尿病性腎症から透析に至る患者を減らす取り組みは最重要課題の一つだ。
メタボ健診やレセプト(診療報酬明細書)のデータを使い、何を基準に患者を絞り込み、どのような保健指導を行うと効果が上がるのか。多くの市町村が試行錯誤を続けている。
八幡浜市にならい、同じ手法を採用したのは、埼玉県皆野町、大分県臼杵市など全国20か所。いずれも八幡浜市と同様に成果が上がり始めているという。
この手法を医療機関主導で行うケースも出てきた。愛媛大教授で内科医の松浦文三さんを中心に、愛媛県内27か所の病院や診療所で、患者の検査結果から透析の高リスク患者を絞り込んでいる。
(赤津良太)
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