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コラム

『注文をまちがえる料理店』/『注文をまちがえる料理店のつくりかた』 小国士朗著

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『注文をまちがえる料理店』/『注文をまちがえる料理店のつくりかた』 小国士朗著

ハンバーグ作りがなぜかギョーザに!? 取材での経験が原点

 認知症の人が接客するレストラン「注文をまちがえる料理店」。2017年9月に3日間限定で東京都内で開かれ、国内外のメディアに取り上げられて話題となった。その企画者が、開店までの道のりやお店でのエピソードなどをつづった2冊の書籍を、相次いで出版した。

 著者は、1979年生まれのテレビ局ディレクターだ。いつ発作が起きるか分からない心臓の病気になり、番組を作れなくなった彼は、数年前から温めていた構想を実行に移すことを決める。それが「接客スタッフが認知症で、注文を間違えてもお客さんが笑って許してくれるレストラン」だ。

 そのアイデアは、2012年、グループホーム取材中に起きたハプニングがもとになっている。認知症のおじいさんやおばあさんが、みんなでハンバーグを作っていたはずなのに、できあがったのは、なぜかギョーザだったのだ。この大胆なメニューの変更を誰ひとり気にすることなく、「おいしいね」と笑い合った。その光景が「強烈な“原風景”になった」という。

認知症は「普通の人生」の延長に

 『注文をまちがえる料理店』では、スタッフやお客さん、認知症の人の家族らが、それぞれの立場から、この試みから生まれた小さなドラマを語る。一つひとつのエピソードに、「普通の人」の「普通の人生」の延長にたまたま認知症があり、それは誰にでも起こりえることなのだと実感させられる。

 『注文をまちがえる料理店のつくりかた』は、開催前後の動きを追ったフォトブック。会場になった六本木のレストランで、開店前日の準備から、最終日の閉店後に行ったスタッフの一本締めまで、4日間に起きた出来事を記録している。

 おいしそうな料理やしゃれた内装に囲まれて、お客や支援スタッフが実に楽しそうだ。何よりも、認知症のおじさんやおばさんの笑顔がいい。ペンより写真の方が、多くを語る時もある、という実例だ。

「不謹慎」を越えて

 実際に認知症の人がレストランのホールに入ったら、大混乱が起きるかもしれない。逆に何の間違いも起きなかったら、間違いを期待していたお客が怒り出すのでは。そもそも、認知症の人の症状にスポットを当ててイベントにするなんて、「不謹慎」と批判されやしないか――。少しやり方を間違えれば、熱い思いや斬新なアイデアを台無しにしかねない様々なリスクがあった。

 それらを乗り越えるために、著者は、過去の取材で得た人脈を駆使した。介護や飲食からITまで、各分野で一流といわれるメンバーを集め、イベントを成功に導くまでのプロセスが、この2冊に収められている。

 「世の中の空気を変えたいならば、不謹慎を越えた向こう側にいかなければならない」(『注文をまちがえる料理店』)と著者は言う。様々な業界の人々が参画したことで、彼らの活動に「認知症」という視点が加わり、新しい潮流が生まれていくかもしれない。イベントは注目を集め、成功裏に終わったと受け止められているが、この挑戦の真価が明らかになるのは、実はまだ先のことなのではないだろうか。(ヨミドクター副編集長 飯田祐子)

 (『注文をまちがえる料理店』あさ出版 1400円税別)

 (『注文をまちがえる料理店のつくりかた』写真・森嶋夕貴 方丈社 1600円税別)

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飯田 祐子(いいだ・ゆうこ)
ヨミドクター副編集長
八王子支局、文化部などを経て、2008年から社会保障部で高齢者の介護・医療を担当。12~14年、東北総局(仙台市)で、東日本大震災被災地の福祉と地域医療を取材。17年4月から現職。

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