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人工内耳、新基準で対象拡大…生活上の「聞こえ」重視

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人工内耳、新基準で対象拡大…生活上の「聞こえ」重視

 補聴器では言葉が聞き取りづらいのに、検査データ上は人工内耳の対象外だった患者にも、その有効性が認識され始めた。東京都の主婦A子さん(67)もその一人で、右耳の人工内耳手術を受け、会話が楽しめるようになった。日本耳鼻咽喉科学会は昨年、実態に合わせて対象基準を改めた。(中島久美子)

手術で埋め込み

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 人工内耳は、機能が低下した内耳に代わり、音を電気信号に変えて聴神経に伝える医療機器。受信装置と電極を手術で埋め込む。補聴器の効果が少ない重い感音性難聴に有効だ。1994年に保険適用され、同学会が98年、対象患者の基準を定めた。

 その後、子どもの基準は改定を重ねているが、大人の基準は当時のままだった。しかし、海外の基準や患者の実態と隔たりが目立ってきたため、昨年、初めて改定。聞こえる音の大きさ「純音聴力」の基準を緩和し、実生活の不自由さを重視したのがポイントだ。

 旧基準は耳元の大声が聞こえない重い両側難聴(90デシベル以上)のみが対象だったが、高度難聴(70デシベル以上90デシベル未満)にも対象を広げた。

 ただ、難聴の不自由さは、「純音聴力」だけでは判断しにくい。特に90デシベル未満では、音を言葉として聞き分ける力に個人差がある。このため、高度難聴の場合、補聴器を付け、その患者にとって最適な大きさの音で言葉をどのくらい聞き分けられるか示す「最高語音明瞭度」を測り、それが50%以下の場合を対象とした。

 A子さんの場合、2015年11月に信州大学病院(長野県松本市)で手術を受けるまでの聴力は両耳75デシベル。何軒も医療機関を回ったが、いずれも「補聴器で我慢するように」との判断だった。「筆談すればよい」と言い放った医師もいた。

 「検査データでは基準外という理由で、不自由があっても補聴器で様子をみる方針の医療機関が少なからずあった」と、同大耳鼻咽喉科教授の宇佐美真一さんは指摘する。

 A子さんは、補聴器を付けた状態の「最高語音明瞭度」が右耳45%、左耳50%。人工内耳を埋め込み、術後のリハビリを経て、右耳は80%になった。

 会話が成立しないことで夫婦げんかになり、家出したこともあるというA子さん。知人に会っても、話しかけられるのが怖くて、手をふって立ち去っていた。「陸の孤島に一人で暮らすような寂しさや、うつ気分でつまらなかった日々が一変した」と笑顔を見せる。

定着まで時間

 日本耳科学会が16年春、人工内耳手術を手がける病院に実施した調査では、回答した87病院のうち74病院(85%)に、90デシベル未満で人工内耳の希望者がいた。ただし、実際に基準外の患者に手術をしたのは42病院(48%)にとどまった。

 新基準は17年秋に公表されたが、定着には時間がかかりそうだ。宇佐美さんは「まだ純音聴力検査だけで判断する医師もいる。人工内耳の手術経験が豊富だったり、補聴器装用下での語音明瞭度検査ができたりする医療機関を受診してほしい」と呼びかける。

 補聴器機能を併せ持つ人工内耳も、14年に保険適用された。高音域の聴力が極端に落ちた患者向けで、通常の人工内耳とは別の基準がある。難聴治療は、徐々に進歩している。

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