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救急時の「延命」どうする…事前に話し合い「納得いく選択を」

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救急時の「延命」どうする…事前に話し合い「納得いく選択を」

次に心臓が止まったらどうするか。終末期医療に関するセミナーでは、寸劇で医師が家族に問う場面が再現された(昨年11月、東京都内で)

 救急搬送される高齢者が増えている。心肺停止など重篤な状態で病院に搬送されると、命は助かっても重い後遺症が残ることが多い。中には 看取みと りに近いケースもあり、後になって延命治療を望んでいなかったことが明らかになることもある。こうした状況に、救急医らが「最期について家族で話し合ってほしい」と、搬送先の救急病院で何が起きるのかを紹介する活動を始めた。

  ■予想外の負担

 「なんとか心臓を動かすのに成功しましたが、いつ止まるかわかりません。その時、延命治療はしますか」

 「そんな急に言われても困ります。本人とは話せないのですか――」

 昨年11月下旬、東京都新宿区で開かれた終末期医療に関するセミナー。救急医と家族による緊迫したやりとりを再現した寸劇に、30~50歳代の参加者12人が 固唾かたず をのんで見入った。

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 寸劇は、高齢の親が心肺停止で救急搬送され、救急医が家族に治療方針を尋ねる場面。救急医役で東京医療センターの布施淳医師が、「脳にダメージがあり後遺症が残る可能性が高い」と告げると、娘役で慶応大病院の福田 芽森めもり 医師は頭を抱えた。

 5分程度の劇の後、布施医師は、「このような会話が救急病院では毎日のようにされています。みなさんは答えられますか」と参加者に語りかけた。

 セミナーは、救急医療の実情を知ってもらうことを目的に、都内の救急医や看護師らでつくる「Happyです倶楽部」が昨年3月から定期的に開いている。

 ほかにも、蘇生のため、力いっぱい胸を押される高齢者の姿や、人工呼吸器などを装着され寝たきりになった高齢者の姿などを実際の映像で紹介。家族が結論を出せないまま延命治療をした結果、退院が困難な状態になり、遠方への転院や予想外の経済的負担を余儀なくされ「こんなはずではなかった」と嘆く家族がいることを話した。

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  ■搬送6割高齢者

 布施医師らがセミナーを始めたきっかけの一つが、高齢者の増加を受けた救急医療の危機的状況だ。

 総務省の統計では、2016年に全国で救急搬送されたのは過去最高の約562万人。その約6割が高齢者だ。また、心肺停止だった約12万4000人でみると、70歳以上が7割を超えていた。寿命を迎えたとみられるケースも多く、「過度な延命治療は受けたくない」と考える人は一定数いるとみられている。

 一方、内閣府の調査では、自分の死が近い場合に受けたい医療を「家族とまったく話し合ったことがない」という人が半数以上おり、その理由は「話し合うきっかけがない」が最多だった。

 セミナーでは最後に、「親がどんな最期を望んでいるかを知っているか」「親と『最期』について語り合うには、どう切り出したらよいか」を参加者全員で議論する。「実態を知らなかった」「話し合うのはもっと先でいいと思っていた」などの感想が寄せられるという。福田医師は「懸命に救命して、本人や家族が望んでいない結末だと言われるのは医療従事者もつらい。終末期の実情を知った上で、納得のいく選択をしてほしい」と話す。

自治体も市民へ啓発

 終末期については、救急医療の運営や在宅医療の推進を担う自治体も、市民向け啓発に乗り出している。

 東京都国立市では、5年前から市内約15か所で市民勉強会を開催。在宅医療に取り組む医師や看護師らが、終末期に判断を求められるケースが多い延命処置に対する希望、どこで最期を迎えたいかなどを記入する「エンディングノート」の一例も示している。

 横浜市も一部で高齢者向けに終末期について話し合うきっかけ作りにと「エンディングノート」の配布を始めている。さいたま市も看取りに際した家族の心構えをテーマに講演会を開催する予定だ。

 西東京市の在宅療養連携支援センター「にしのわ」の高岡里佳センター長は「人工呼吸器を着けると24時間ケアが必要な生活になるなど、一つ一つの延命処置を行うとどうなるのか、どんなリスクがあるのかなどを丁寧に説明できる専門職の役割が重要」と指摘。日頃の心構えとして、「自分が意思表示できない時に、自分の思いを語ってくれる家族らと話し合うことが大切だ」と話している。

 (大広悠子)

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