文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

僕、認知症です~丹野智文43歳のノート

コラム

認知症でも働ける…2冊を使いこなす丹野式ノート術

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
認知症でも働ける…2冊を使いこなす丹野式ノート術

勤務中の私です。頭を使う仕事をする時は、脳をフル回転させているので、話しかけられても全く気づかないことがあります

時間はかかるがミスは少ない

 私が休みの日に、他部署から問い合わせがあった場合などは、周りの社員が私のノートを見て対応してくれます。「誰が見ても分かるように書かれているので助かる」と好評です。

 自分の記憶が信用できないため、ノートに書かれている手順を忠実に守り、提出前にも繰り返し見直しているので、時間はかかります。でも、間違いはほとんどありません。

 認知症になると8割の人が仕事を辞めてしまうのは、周囲も本人も「失敗するのでは」「周りに迷惑がかかるかも」と不安に思うからです。でも、普通の人だって間違います。認知症でも、症状に合わせて、ミスが少なくなるようなやり方を考えればいいのです。

頭を使う業務は朝のうちに

 認知症の人は、体調や気持ちに波があります。日によっても違いますし、1日の中でも時間帯によって変化します。

 私の場合、朝は頭もすっきりしていて回転がよいので、頭を使う仕事を最初にやるようにしています。1時間半くらいであれば、かなり集中して取り組むことができます。

 お昼を食べた後は、少し横になって休みます。社内の一室に大きなソファを置いてくれているので、そこで20分ほど仮眠を取るのです。認知症の薬の作用なのか、夢を見てばかりで熟睡してはいないのですが、そうして脳を休めると、また午後から仕事ができるようになります。

 時間がたつと、また頭がうまく働かなくなってきます。そういう時に計算が必要な仕事をすると、何度やっても数字が合いません。ですから夕方は、各店舗に送る宅配便用の箱の組み立てなどの単純作業にあてています。頭を使わない仕事なら、疲れていても大丈夫なのです。

 こんなふうに、その時の調子に合わせて自分で調整できるのがありがたいです。当日のうちに必ず仕上げなくてはいけないような業務を担当していると、こうはいかないと思います。

同僚におめでた続き、新人と2人きりに

 本社の総務・人事グループは、販売店と違って女性の多い職場です。働き始めてから間もなく、同じチームの社員が相次いで産休に入ることになりました。

 おめでたいことですから、私も手放しで喜びたいところなのですが、新しい職場にやっと慣れてきた頃に頼れる“先輩”がみんないなくなってしまったのです。後に残ったのは、新入社員の女性と私だけ。「こうなったら、2人でやるしかないね」と、励まし合いました。

 分からないことがあれば、「忘れちゃったから教えて」と、この女性に尋ねるようにしました。トイレから戻ると、それまで何をしていたのかを忘れてしまっていて、「俺、何やってたっけ?」なんて聞くこともあります。親子ほども年が離れていますが、気さくに教えてくれるので、聞くのがストレスになりません。逆に彼女の仕事を私が手伝うこともあります。

親の責任を果たせる幸せ

 この女性社員に限らず、周りの同僚や上司たちは、私のことを何となく気にかけてくれていて、倉庫に行ったまましばらく戻らないと様子を見に来てくれたりもします。大抵は、中で作業をしているだけなのですが。

 私が自分でできることは任せてくれる一方で、さりげない目配りを欠かさず、困っていればすぐに助けてくれるのです。この職場でなら、記憶が悪くても残された能力を生かして、周りに必要とされる働きができます。

 アルツハイマーと告知された時、まだ幼い2人の娘を育てていけるのかということが、一番気がかりでした。会社に戻り、今こうして親の責任を果たせていることが、私には何よりもうれしいのです。

 他の当事者も、社会の中で働く喜びを持ち続けられるようになってほしい。職場に認知症の人がいるのが当たり前、という時代が早くくることを願っています。(丹野智文 おれんじドア実行委員会代表)

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

tanno_200eye

丹野智文(たんの・ともふみ)

 おれんじドア実行委員会代表

 1974年、宮城県生まれ。東北学院大学(仙台市)を卒業後、県内のトヨタ系列の自動車販売会社に就職。トップセールスマンとして活躍していた2013年、39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断を受ける。同年、「認知症の人と家族の会宮城県支部」の「若年認知症のつどい『翼』」に参加。14年には、全国の認知症の仲間とともに、国内初の当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」を設立した。15年から、認知症の人が、不安を持つ当事者の相談を受ける「おれんじドア」を仙台市内で毎月、開いている。著書に、「丹野智文 笑顔で生きる -認知症とともに-」(文芸春秋)。

僕、認知症です~丹野智文43歳のノートの一覧を見る

最新記事