心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
目の前に「ノイズ」が降り注ぐ…視力検査では分からない「小雪症候群」
「小学生のころから、視野の全体に、本来はないはずの無数の点や斜線が見えて、画像の悪いテレビを見ているようです」。そんな症状を訴える女性(23)が来院しました。
この女性について、私の前に診察していた医師からの情報提供書(いわゆる紹介状)には、「やや強い近視がある以外には、眼科的には何ら異常がない」「でも、文字が光ったり、行間が光って文字が読みにくかったりするなどと、最近になって症状が悪化しているという訴えがあったのでセカンドオピニオンを求める」と書かれていました。
本来ないはずのものが…想像できないほどの苦労
実は似たようなケースを、私は過去に10例以上みてきました。
最初のケースは女子中学生で、「視野全体にいつも小雪が降っているように見えて邪魔です」と訴えていました。彼女はそれから20年以上にわたり、時折外来にやってきますが、症状は変わらないそうです。障害の判定基準となる視力や視野の検査数値からは想像できないほどの苦労があるのだろうと思います。
この患者のことは、2005年に出版した「目は快適でなくてはいけない」(人間と歴史社)の中で紹介し、「教科書にも、文献にも出てこない」と書きました。そして、「小雪症候群」と名づけました。
無数のツブツブ、残像…脳の中の機能検査
その後も同じような症状を訴える人が、年に1人か2人、私の外来を訪れます。
どの患者にも共通するのは、比較的細かく、時には大きかったり小さかったりする無数の白色や透明のツブツブが、視野の「画面」全体にあって、いろいろな速さで動いているという点です。片目で見ても、両目で見ても同じです。
もう一つ、ほとんどの患者にみられる特徴は、一点を見つめたり、光っているものを見たりした後に視線を移すと、残像が数十秒残るということでした。
この現象は、眼球の中で起こっているものではありません。視覚に関係する脳のどこかに発生している「雑音(ノイズ)」と推定されます。そこで私は、患者たちの同意を得て、脳の機能画像を撮ることにしました。
通常の頭部MRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピュータ断層撮影)での画像診断は、脳などの形だけをみるものですが、機能画像は脳が機能しているときの血流や代謝の状態をみるものです。
私たちは、「小雪症候群」と思われる患者の場合、「ポジトロン断層法」という方法で、脳内の糖の代謝状況を見ました。一部の患者は、脳の中でも動きに反応する細胞の多い「V5」という領域での糖代謝が、動かないものを見ている時でも活発になっているという結果が得られました。つまり、これらの人はV5の活動が普段から活発すぎて、小雪のような視覚ノイズが出ているのだと納得できました。
1 / 2
【関連記事】