心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
日本の社会・文化から生まれる「対人恐怖症」…心を支える小さな工夫
周りの目が…社会生活に苦しみ

さて、私の外来で最も患者数の多い 眼瞼 けいれんの患者さんたちも、目を開け続けることが困難なため、社会生活を送るのに大きな苦しみを伴います。
症状が軽い場合でも、仕事中に目が閉じてしまって周囲に 見咎 められないかと不安になり、それだけでドキドキしてしまったり、会議中にまばたきが増えるのがいやで 瞼 を閉じていると「居眠りしているのか」などと誤解されてしまうといった、日々の 辛 さを訴えています。症状の辛さに加えて、患者にとっては笑って済ませることはできない心の痛む場面となるのです。ここにも、周りの目を極端に気にする気持ちが強く存在すると言えるでしょう。
周囲と異なる姿形の人を見ると、あげつらう人が日本社会では多いと思います。
私が勤める病院では、このような眼瞼けいれん患者の苦しみを和らげる方法のひとつとして「美容テープ」を活用しており、美容家・かづきれいこさんに、年に数回指導に来てもらっています。メーキャップを通じて心も体も元気にする「リハビリメイク」の研究や実践で有名な人です。
美容テープを活用…きれいになって、明るい笑顔
美容テープとは、肌につける薄いテープで、たるみなど気になる場所に使います。眼瞼けいれんでは、まぶたなどに貼ることでさまざまな症状を軽減できないだろうかと考えて試みています。
かづきさんに感触を聞いてみると、「なかなかいいですね。特に女性は、外見をすごく気にします。メイクできれいになると、精神状態も改善されるのか、とても明るい笑顔になります」とのことです。
人の目を強く気にする文化的な傾向は、眼瞼けいれんなどの病気を持つ人にとっては厄介です。しかし、メイクや美容テープを活用することで楽に目を開けることができれば、一時的かもしれませんが、人の目を気にしなくてよくなります。
社会の中にある文化的特異性が変わっていくには時間がかかるでしょう。そうだとすれば、今の苦しい症状の理由を丁寧に説明したり、美容テープを使ったりするような医療現場での小さな工夫が、悩める患者たちにとって大きな心理的サポートになることを、我々は気付くべきだと思います。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)
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