心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
カンニングしていると誤解されるかも…実は日本人に多い「自己視線恐怖」
「視野が偏る」男性の訴え
私の心療眼科の外来には、ほかの眼科で「異常なし」とか、「気のせい」「わからないが心配ない」などと言われて、途方に暮れた人たちが大勢やってきます。
確かに、彼らの眼球に異常はありません。検査をしても「これ」という所見は見付かりません。
そのような人たちの中に、「視野が偏る」と訴えてきた40歳代の男性がいました。
「視野が偏るとは、どういう意味でしょうか?」
私が改めて聞くと、この男性は「どうしても左側にあるものが気になります。そちらばかり注意してしまい、右にあるものを見落としてしまいます」と答えました。
診断は毎回「何ともない」…もう、あきらめていた
この男性の視野検査を行いましたが、異常は見つかりませんでした。
「最近、急に起こったことですか?」
私がそう尋ねると、彼は少し考えこんでから口を開きました。
「気にしないようにはしてきたのですが、『自分の目が違うところを見ていると(他人から)思われないか』と気になることは、子どものころからあったかもしれません」
彼はこれまでも、何度か眼科を受診したそうです。しかし毎回、「目は何ともない」と言われるばかりで、らちが明かず、ここ10年は、もうあきらめていたということです。
男性はインターネットで心療眼科のことを知って、私の外来へ来てみようと思ったそうです。
試験の時に目が横へ…同じような症状、ほかにも経験者
彼の話を一通り聞くと、すぐに診断の「あたり」はつきました。あとは確認の質問をいくつかすればよいだけです。
「学生時代、カンニングをしていないのに、誤解されそうな気がしたことはありませんか?」
この男性は、目の前の眼科医が奇妙な質問をしたことにびっくりしたのか、あるいは思い当たるふしがあって絶句したのか、ぱっと顔を上げました。
私はさらに、こう付け加えました。
「あなたとよく似た症状を訴えている人を何人か診ています。みんな学生です。電車内などの閉鎖空間で、周囲の人のケータイの光が気になって、そこへ視線が行ってしまい、『 覗 かれていると勘違いされないか怖い』と思ったり、筆記試験の時に自分の目が横へ動いてしまって『カンニングしていると間違えられないか』と心配したりしています」
男性は、うなずきました。おそらく、そのような経験があったのでしょう。
「よく似ています、私も多分その病気だと思います。病名は何ですか」
彼は「長年の謎が解けるかもしれない」と期待する表情になりました。
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