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スポーツDr.大関のケガを減らして笑顔を増やす

コラム

引退後に認知機能障害も 重視される「脳振盪」への対応

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 どうも、大関です。 (のう)振盪(しんとう) と聞いて皆さんは何を思い浮かべますか。私は学生時代の約10年間、ラグビーをプレーしていましたが、頭をぶつけて試合中の記憶をなくしたことが一度だけあります。20年ほど前の話です。当時はヤカンの水を頭にかけて、プレーに戻れそうなら戻る、という時代でした。

 しかし、脳振盪への対応の仕方は、昔と今とでは大きく変わっています。発生頻度は異なっても、あらゆるスポーツで生じる可能性があるものですから、スポーツに関わるすべての方に知っておいてほしいと思います。

 大学ラグビー選手のケースです。

 大学3年生のF君。ポジションはフランカーで鋭いタックルが持ち味です。練習試合でタックルに行った際、入りどころが悪く相手の膝が頭を直撃。しばらく起き上がることができず、そのまま退場となりました。腕や脚の動きに問題はなく、記憶もはっきりとしています。頭痛があるほか、少し気分が悪く吐き気を伴っています。

 脳振盪は、頭部の外傷後に出現する一過性の神経機能障害で、頭蓋内に明らかな出血を認めないものの、一時的に脳の活動に障害が出ている状態です。コンタクトプレーが多いラグビーやアメリカンフットボールなどで頻度が高いのですが、柔道、バスケットボール、野球、サッカー、スノーボードなど、どのスポーツでも発生しうるものです。また、直接的な頭部への衝撃だけで生じるのではなく、脳が揺さぶられれば生じます。

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意識や記憶に問題がなくても

 脳振盪の症状は多様で、頭痛、めまい、気分不快、意識消失、健忘、吐き気、 嘔吐(おうと) 、バランスの障害、反応の鈍さ、見当識障害(時間、場所、人などが分からなくなった状態)などがありますが、これらすべての症状が出るわけではありません。また、「意識がなくなったら脳振盪」ということではなく、意識や記憶に問題がなくても脳振盪のケースがよくあります。

 医療関係者がいない場合、現場で脳振盪かどうかの判断は容易ではありません。競技によっては「SCAT3」という脳振盪の評価ツールが用いられます。2016年にベルリンで行われた第5回国際スポーツ脳振盪会議では、これを刷新した「SCAT5」が提案されています。

 また、日本臨床スポーツ医学会・脳神経外科部会からは「頭部外傷10か条の提言」(第2版)が出されており、脳振盪の評価の仕方が分かりやすく書かれています。ぜひ、一読をお勧めします。

頭部外傷10か条の提言・第2版:一般社団法人日本臨床スポーツ医学会・学術委員会・脳神経外科部会

頭部外傷10か条の提言・第2版:一般社団法人日本臨床スポーツ医学会・学術委員会・脳神経外科部会

その日はプレーせず 段階的復帰を

 脳振盪が疑われたら、その日の競技を続けてはいけません。直後は重症な頭部外傷が生じやすい(再び脳振盪が生じやすい)状態になっています。また、意識消失があった場合、記憶がはっきりしない場合、長引く頭痛やめまいがある場合、手足に力が入りにくい場合などは、専門家の評価が必要です。

 その後の競技復帰については、「段階的競技復帰プロトコール」が推奨されています。段階ごとの評価を行い、問題なければ次の段階に進んでいきます。各段階の評価は、間隔を24時間以上あけて行います。脳振盪は繰り返すことで重篤化・長期化することがあるため、慎重な競技復帰が提唱されています。

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 それでは、F君の経過です。

 医療機関にて頭部CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)を撮影した結果、出血などはみられませんでした。段階的競技復帰プロトコールに従い、次の日は安静にして過ごし、その翌日から軽い有酸素運動を行いました。症状が再び出ることなく経過し、1週間後の試合に出場しました。

映画にも 注目される「慢性外傷性脳症」

 近年、ボクシングやアメリカンフットボールで脳振盪を繰り返した選手の引退後に認知機能障害や運動障害が出現する「慢性外傷性脳症(CTE:chronic traumatic encephalopathy)」という病態が注目されており、米国の映画「コンカッション」でも描かれました。

 スポーツをするのにけがを過度に怖がる必要はありませんが、安全面に関する最新の知識を持った上で競技、指導をすることが大切です。プレーヤーズ・ファースト、プレーヤーズ・ウェルフェアの観点から、スポーツに関わるすべての人で、より良いスポーツ環境を作っていきたいですね。(大関信武 整形外科医)

【スポーツ医学検定のご案内】

 私たちは、スポーツに関わる人に体やけがについての正しい知識を広めて、スポーツによるけがを減らすために、「スポーツ医学検定」を実施しています。スポーツ選手のみでなく、指導者や保護者の方も受けてみませんか(誰でも受検できます)。

 第3回スポーツ医学検定
 https://spomed.or.jp/es/affCatchToTop.php?aid=7
 2018年5月20日(日曜)
 *申し込みの開始はホームページにて案内します。
 本文のイラストや写真の一部は、「スポーツ医学検定公式テキスト」(東洋館出版社)より引用しています。

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大関信武(おおぜき のぶたけ)

整形外科医・博士(医学)
一般社団法人日本スポーツ医学検定機構代表理事

1976年大阪府生まれ、兵庫県立川西緑台高校卒業。
2002年滋賀医科大学を卒業。2014年横浜市立大学大学院修了。横浜市立大学付属病院、横浜南共済病院、関東学院大学ラグビー部チームドクター、英国アバディーン大学研究員などを経て、2015年より東京医科歯科大学再生医療研究センター所属。現在、東京医科歯科大学付属病院スポーツ医学診療センター、八王子スポーツ整形外科などで診療。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。野球、空手、ラグビーなどを通じて、野球肘、肩関節脱臼、足関節靱帯損傷、骨折(鼻骨、手首、下腿)など自身が豊富なケガの経験を持つ。スポーツのケガを減らしたいとの思いで、2015年12月一般社団法人日本スポーツ医学検定機構を設立し、「 スポーツ医学検定 」を開催している。

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3件 のコメント

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競技スポーツと自己責任と一般社会への還元

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

タイムリーにボクシング漫画でCTEが出てきました。 競技スポーツにおける自己責任とはどの範囲を指すのか、スポーツ障害の保険も昔に比べ一般的になり...

タイムリーにボクシング漫画でCTEが出てきました。
競技スポーツにおける自己責任とはどの範囲を指すのか、スポーツ障害の保険も昔に比べ一般的になりましたが、これからも議論になりそうですね。
飲酒や喫煙も適量であれば精神安定効果がある一方で、それが依存症を産むわけです。
(また、こういう難解な症例の解析は一般医療の診断治療も進化させます。)

遊びのつもりがエスカレートしてというのは、子供の遊びでも、エンジョイスポーツでもあることです。
一方で、どこまでも遊びで真剣味がないと、挫折経験や考える意欲が育まれず、子供の教育機会を奪ってしまいます。
その中の一定数は、非行に走ってしまうことでしょう。

学校の勉強と仕事さえやっていたらいいというのは、少なくない大人の本音かもしれませんが、人間の一定数は必ず高次の欲求に進むようにできていますし、そういう人間が非常識な発想を具現化することで、先進国で居続けられることができます。

プロにならない子は絵筆も絵の具も消費してはならず、ノーベル賞級の才能のない子は中学や高校に行くのもやめましょうとは一般的な意見ではないでしょう。

街中を歩いていて交通事故に遭った場合も、地域のお祭りに参加して事故に巻き込まれた場合も、そこにいたのはどこか自己責任なわけですが、そういう時にも様々なイベントをきっかけにシステムを組んでいれば、個人も集団も被害は最小限に食い止めることはできます。

スポーツにかけらも理解の無い人は僕の専門外であるので、例え他に医者がいなくても診ることができません。
そんなケチな事ばっかいう大学病院ほど人手不足で、地域人口も尻すぼみです。
もっとも、地域の繋がりやシステムの共有の側面が見えたら意見が変わる人も多いと思います。

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競技スポーツでのケガは自己責任です

国民代表

怪我するとわかっていながら好きでやってるスポーツで怪我をした場合、医療費は全額自己負担とすべきです。また、高次脳機能障害等の重度の後遺障害により...

怪我するとわかっていながら好きでやってるスポーツで怪我をした場合、医療費は全額自己負担とすべきです。また、高次脳機能障害等の重度の後遺障害により経済的に困窮しても、自己責任なので生活保護は受けないでもらいたいです。財源のみならず、医師や看護師等の人的リソースも不足していますので、競技スポーツで怪我した人は、そもそも医療のお世話にならないでほしいです。

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予測しうる救急疾患に対する組織的対応

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

コストや人手の問題もあり、一般アマチュア選手の事前の脳の画像検査は現実的ではないと思います。 一方で、この10か条の提言をどういう風に素因数分解...

コストや人手の問題もあり、一般アマチュア選手の事前の脳の画像検査は現実的ではないと思います。
一方で、この10か条の提言をどういう風に素因数分解したら、他の部位の外傷も含めて、不幸なケースを減らすために運用できるのか?

理学所見とりの問題は「普段との比較」が微小な症状では分かりにくい事と不慣れな人間では時間を浪費してしまう事です。
僕が大学サッカーの会場で働くときは、やる気ないように見えても、最悪と最善の推定診断を下したうえで病院のサイズと必要な検査、診療科を告げてさっさと受診させます。
非人間的な表現で申し訳ないですが、重要なのは急速に進む病変の患者をいかに効率的に処理するかです。
慢性期の病変は啓発活動である程度減らせるでしょう。

そういう意味では、大きな大会があらかじめ決まっている場合、安静処置で済むケースと検査から緊急治療に臨むケースの担当病院が決まっているといいと思います。
地域によって医療事情は異なりますが、産婦人科のたらい回し問題よろしく、診察室前の問題や人手の集中の問題を医療内外の人間の組織構築で減らすのは大事だと思います。

レアな先天素因を除いて、急性期病変の発症起点はある程度分別可能ですし、地域ごとに戦略を立てておけば混乱も少ないと思います。
また、簡易な手術室と執刀医、麻酔科医がいなければ、バイタルの維持を除き、その場での大掛かりな処置が必要なケースは少ないというのもポイントでしょう。

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