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僕、認知症です~丹野智文43歳のノート

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通勤中、助け求めてナンパと誤解され…「認知症です」カードを自作

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助け求めてナンパと誤解…「認知症です」カードを自作

自作のカードを入れた定期入れです。通勤カバンにくくりつけてあるので、すぐ取り出せて、なくす心配もありません

認知症になると働けない?

 私は大学を卒業してからずっと、自動車販売会社「ネッツトヨタ仙台」の店舗で営業マンとして働いてきたのですが、5年前に認知症の診断を受けた際に本社の総務・人事グループへ異動になりました。

 よく「どうやって働いているのですか?」と聞かれます。「認知症になったら、仕事は続けられない」という感覚が、まだ一般的だということでしょう。

 実際、厚生労働省が2014年に行った調査では、働いていた若年性認知症の人の79%が自ら退職したり、解雇されたりしたそうです。私がこれまでに見聞きした範囲では、勤め先を辞めずにすんでも、実際には仕事らしい仕事はほとんどしていないという場合も多いようです。

 しかし、私自身の経験からいうと、周囲の理解と協力、本人の意欲があれば、働くことは可能です。そのことを知ってもらうためにも、私がどうやって勤務しているのかをお伝えしたいと思います。

毎日の通勤経路で迷う

 仕事を続けるうえで、大きな課題となるのが通勤です。私の場合、毎日使っている経路でも突然、どう行けばいいのかを忘れてしまうことがあります。道を間違えたり、乗り場を見つけられなかったりすることもありますが、電車やバスに乗っていて、どこで降りればいいのか分からなくなる時が一番焦ります。

 近くの乗客に尋ねるのですが、大抵の人はけげんな顔をします。見知らぬ男に突然、「私は若年性認知症で、会社に行くところなのですが、どの駅で降りればいいでしょうか」なんて言われたら、ふざけているのかと思ってしまっても仕方ありません。

 20代前半くらいの女性に声をかけたら、「新手のナンパですか?」と言われてしまいました。それでいよいよ「これはまずい」と思ったのです。

 対策を考えて、自宅から会社までのバスと地下鉄、JRの乗り継ぎ経路とともに、「若年性アルツハイマー本人です ご協力お願いいたします」と印刷したカードを作り、定期入れに入れました。困った時はそれを見せるようにしたら、それまでとは打って変わって、すぐに助けてもらえるようになったのです。

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丹野智文(たんの・ともふみ)

 おれんじドア実行委員会代表

 1974年、宮城県生まれ。東北学院大学(仙台市)を卒業後、県内のトヨタ系列の自動車販売会社に就職。トップセールスマンとして活躍していた2013年、39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断を受ける。同年、「認知症の人と家族の会宮城県支部」の「若年認知症のつどい『翼』」に参加。14年には、全国の認知症の仲間とともに、国内初の当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」(現・一般社団法人「日本認知症本人ワーキンググループ」)を設立した。15年から、認知症の人が、不安を持つ当事者の相談を受ける「おれんじドア」を仙台市内で毎月、開いている。著書に、「丹野智文 笑顔で生きる -認知症とともに-」(文芸春秋)。

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