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僕、認知症です~丹野智文43歳のノート

医療・健康・介護のコラム

通勤中、助け求めてナンパと誤解され…「認知症です」カードを自作

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病気をオープンにすれば、みんな親切

 ある日、乗り換えを間違えてしまい、なんとか正しいバスに乗ったものの、動揺を引きずっていたこともあって、降車ボタンを押すタイミングがつかめずにいました。すると、隣にいた人がボタンを押して「ここで降りるんですよ」と教えてくれたのです。私が不安そうに定期入ればかり見ていたので、その人にもカードの文面が見えたのかもしれません。この時に限らず、病気のことをオープンにすると、みんな親切にしてくれました。

 認知症の人だけでなく、病気や障害を持つ人が外出する際、こうしたカードが役に立つということがだんだん知られるようになってきました。東京の交通エコロジーモビリティ財団が、外出時に支援が必要な人のための「おでかけサポートカード」を作成した際には、私も当事者として意見を求められました。

 当初は、パスポートと同じ大きさを想定していたそうなのですが、持ち歩いてもらうには、定期入れや財布に入るよう、Suica(スイカ)のサイズにした方がいいです。また、耳が不自由な人もいれば、話すのが苦手な人、券売機の使い方が分からない人もいます。「どんなことで困っているかは人ぞれぞれなので、複数のカードを用意して、選べるようにしてはどうですか」「家族の連絡先や必要な支援などを書き込んでカスタマイズできるようにするといいのでは」など、自分の体験をふまえて考えを述べました。

 私だけでなく様々な人の意見を取り入れて完成したカードが、昨秋から財団のサイトで公開されています。印刷して、切り離したり折りたたんだりして使うことができます。それぞれの人が使いやすいカードを作る助けになればいいと思います。

難関はバス 降車ボタン押し忘れ

 通勤で最大の難関はバスです。朝は頭の調子がよいし、終点まで行くので乗り過ごす心配はないのですが、頭が疲れている帰り道が問題なのです。

 自分が降りる停留所を忘れてしまうこともあるし、降車ボタンを押し忘れることもあります。停留所が近づいて降りるつもりでいるのにバスが止まらないので、「あれ?」と思うのですが、ボタンを押していないのですから当たり前です。最寄りの停留所で降り損なって、バスに乗ったまま自宅の前を通り過ぎて行く私を、たまたま家の前にいた妻が笑いながら見ていた――なんてこともありました。

 認知症になってからは、そうした小さな失敗は日常茶飯事です。周りが笑い飛ばしてくれれば、私も穏やかな気持ちでいられます。実際、乗り過ごしたとしても、停留所一つ分くらい歩いて戻ってもどうということはありません。慌てるのが嫌なので、自宅を目印にしてボタンを押し、一つ先の停留所で降りるようにしていたこともあります。

三つ先の停留所表示…心に余裕、機器の進歩に感謝

 そんな私の通勤に、この2年ほどで小さな変化が起きました。仙台市内を走るバスの車内に三つくらい先の停留所名まで表示されるようになったのです。

 それまでは次の停留所名のみだったので、「見逃して乗り過ごしてしまったのでは」と、不安になったり、目指す停留所の名称が急に現れるので、そちらに気をとられてしまい、ボタンを押し忘れたりしていました。

 今では、目的の停留所が近づいてきたことが少し前から分かるため、落ち着いてボタンを押す余裕ができました。こうした機器の進歩は、本当にありがたいです。認知症の人のために導入したわけではないでしょうが、みんなが使いやすいものは、病気や障害を持つ人の助けにもなるのだと実感します。

 今回は、私の通勤の工夫を紹介しました。次回は、職場でどんなふうに働いているのかをお知らせしたいと思います。(丹野智文 おれんじドア実行委員会代表)

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丹野智文(たんの・ともふみ)

 おれんじドア実行委員会代表

 1974年、宮城県生まれ。東北学院大学(仙台市)を卒業後、県内のトヨタ系列の自動車販売会社に就職。トップセールスマンとして活躍していた2013年、39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断を受ける。同年、「認知症の人と家族の会宮城県支部」の「若年認知症のつどい『翼』」に参加。14年には、全国の認知症の仲間とともに、国内初の当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」を設立した。15年から、認知症の人が、不安を持つ当事者の相談を受ける「おれんじドア」を仙台市内で毎月、開いている。著書に、「丹野智文 笑顔で生きる -認知症とともに-」(文芸春秋)。

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