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時を重ねる

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67年 甲子園と泣き笑い 野球解説者 吉田義男さん

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 <プロ野球・阪神タイガースの選手、監督として長年にわたって活躍し、甲子園球場(兵庫県西宮市)とのゆかりは深い。>

「最近、妻が久々に甲子園に来まして。女性客が増え、ファンの雰囲気が優しくなっているのに驚いていました」(兵庫県西宮市で)=大久保忠司撮影

「最近、妻が久々に甲子園に来まして。女性客が増え、ファンの雰囲気が優しくなっているのに驚いていました」(兵庫県西宮市で)=大久保忠司撮影

 今も解説や、甲子園に併設されている歴史館顧問の仕事で、しょっちゅう甲子園に行きます。仕事がない時もつい足が向いてしまう。球場近くの喫茶店に行って、顔なじみと話をしています。

 甲子園との付き合いはもう67年。こんだけ長い人は、ほかになかなかいないんやないかな。

 初めて足を踏み入れたのは京都・山城高2年の時。夏の全国高校野球選手権大会で京都府代表として出場したんですが、当時は 鉄傘てつさん の大屋根がなく、日差しが強かった。初戦で負けてしまい、悔しい気持ちで京都に帰りました。

 それから、甲子園も改修を重ねて姿を変えています。でも、ずっと変わらずここにあって。来るとほっとする場所があるのはいいですね。

 <1メートル65の小柄な体ながら、現役時代は華麗な守備で「牛若丸」と呼ばれた。>

 立命館大を中退して入団し、ショートを守りました。一塁は初代「ミスター・タイガース」の藤村富美男さん。選手としては晩年で、三塁からコンバートされたところでした。僕よりも17歳上の大スター。悪送球できない、と緊張しました。

 1、2年目は失策が多かったけど、当時の監督が我慢して使い続けてくれた。僕も必死でね。夜も部屋にグラブを持ち込み、指先まで神経が行き届くように慣らしました。今みたいにモノが豊富な時代やないから、何度も何度も直して使って。現役17年間で3個ほどしか使ってません。

 <2度目の監督に就任した1985年、阪神は初の日本一に。「猛虎フィーバー」は社会現象になった。その後、フランス代表チームの監督も務めた。>

 日本一になった当時のコーチや選手らと「天地会」を作り、今も年1回は温泉やゴルフに行っています。会の名称は「天国と地獄」の略。1年目は優勝で、3年目は最下位でしたから。優勝翌年に就任したコーチもいて、「僕は地獄しか知りません」って言うてます。思い出話や近況報告ができるのが楽しい。長生きのおかげですわ。

 神宮球場で21年ぶりにセ・リーグ優勝を決めた後、甲子園に戻ってグラウンドを1周しました。スタンドで泣いて喜ぶファンの姿を見たら、涙が止まらなくて……。あの光景は鮮明に残っています。

 最下位になり監督を辞めた後、知人の誘いでフランスに行きました。もともと好奇心が強いんです。個人主義が強い国だから、最初は送りバントの指示に「何で自分が犠牲にならないといけないのか」と反発されたけど、実際にバントで試合に勝つと納得してくれた。野球を世界に広められ、貴重な経験ができた。

 人生を振り返ると、本当に野球しかしてこなかった。でも、今もこうやって仕事をさせてもらい、生活できる。この年になり、改めて周りへの感謝の気持ちが強くなっています。

イレギュラーをうまく処理するのがプロ。人生も同じ

 <娘2人は結婚して関東に住んでおり、今は3歳下の妻と2人暮らしだ。>

 結婚して今年で60年。僕が監督をしていた時は、自宅にしょっちゅうファンから「何であんな采配するんや」と電話がかかってきた。僕が遠征で家にいない時は妻が対応して。苦労をかけましたわ。

 幸い、お互い健康ですけど、行動範囲は狭くなってきましたね。昔は家のことは何にもしなかったけど、妻が足を痛めた時なんかは、僕がごみ出しなどをするようになった。支え合っていかなあかんと思ってます。

 僕ね、野球では、跳ねたりそれたりイレギュラーなバウンドをした打球をうまく処理できるのがプロやと思ってるんですわ。予測できることを、その通りやるのは当たり前。思いもしないことにうまく対応できるかが勝負なんです。

 人生も同じですわな。年を重ね、これからイレギュラーなことがあるかもしれない。うまく行くかどうか分かりませんけど、冷静に対応していきたいです。(聞き手・前田利親)

2017年7月2日掲載(略歴は当時のもの)

 よしだ・よしお 1933年、京都市生まれ。53年、阪神タイガース(当時は大阪タイガース)に入団し、17年間選手として活躍した。75~77年、85~87年、97~98年と3期にわたり阪神監督を務めた。92年に野球殿堂入り。現役時代の背番号「23」は阪神の永久欠番。

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時を重ねる
年齢を重ねたからこそ得られる楽しみや境地がある。高齢期を迎えた各界の著名人に思う存分語ってもらいます。

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