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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

貧困と生活保護(53) 低所得化に合わせて基準を下げてよいのか

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審議会の合意はなく、厚労省が決定

 生活保護の基準は厚労省が告示で定めています。どういう方式で生活扶助の基準を改定するか、ルールは決まっていません。今回、現行の基準が適切かどうかの検証作業は、16年5月から社会保障審議会生活保護基準部会で行われましたが、多くの委員から「新たな検証方式を考えるべきだ」といった意見が出ました。しかし、事務局の厚労省保護課が主導して「水準均衡方式」で検証作業を進めました。

 水準均衡方式でも、どの層の消費実態を参照するかはいくつかの選択肢があるのですが、用いたのは最下位10%の層です。総務省の全国消費実態調査のデータ(14年調査分)で、消費支出が最も低い10%の世帯(うち生活保護と見られる世帯は除外)の消費支出の状況を見て、それを生活扶助の基準と比べたのです。その検証結果をあてはめて生活扶助の基準を修正すると、最大13.7%の減額になる世帯が出るところですが、厚労省は影響の大きさを考えて、下げ幅にキャップをかぶせ、最大5%に抑えることにして12月22日に公表しました。

 ただし、 基準部会の報告書 (12月14日)は、検証結果を一つの試算として示しただけで、基準をどうするべきだという意見は述べていません。厚労省による最終的な基準改定の内容も、基準部会には諮られていません。つまり今回の見直しは、基準部会の委員になった専門家の合意を経た内容ではなく、あくまでも厚労省による政策決定なのです。

最低生活の水準が際限なく下がっていく

 最下位10%の層に合わせる水準均衡方式には、大きな問題があります。最も貧しい層の中には、最低限度を下回る暮らしの世帯が相当含まれるからです。生活保護の要件を収入・資産の両面で満たす世帯のうち、実際に保護を利用している割合(捕捉率)は2~3割と見られます(「 貧困と生活保護(49)生活保護の大問題は、低すぎる捕捉率 」を参照)。恥の意識、福祉事務所の冷たい対応、保護を受けるために自動車を手放すと暮らせないといった事情で、厳しい生活に耐えている貧困層。その低すぎる生活水準に生活保護を合わせることになりかねません。

 そして、国民の生活水準の低下傾向が続く中で、最も貧しい層との比較を続けると、保護基準が際限なく下がり続けてしまいます。「健康で文化的な最低限度の生活」に必要と考えられる費目を積み上げるマーケットバスケット方式を改めて用いるなど、何らかの形で絶対的なラインを設定するべきではないでしょうか。この問題は、基準部会の報告書も強調しています。

保護を受けていない世帯にも影響

 生活保護の基準の改定は、政府が国民に最低保障する生活水準(ナショナルミニマム)が変わるということです。いま安定した暮らしの人でも、病気、けが、死別、失業など何らかの事情で生活に困る可能性があります。そのとき基準額が下がっていると、政府が確保してくれる生活水準が低くなるわけです。具体的には、三つの面で影響が生じます。

 第1に、現に生活保護を利用している世帯が受け取る額が減ります。

 第2に、生活保護を利用できるラインが下がります。収入が基準額より少し低い水準の世帯は、これまでなら利用できた保護を受けられなくなります。

 第3に、保護基準の引き下げは、他の制度にも影響します。住民税の非課税限度額、就学援助の基準、最低賃金、大学の授業料・入学金の減免などは保護基準を参照して決められます。介護保険料の区分、介護施設入所中の食費・居住費も保護基準に連動する部分があります。また、住民税の非課税限度額が下がると、医療保険の高額療養費制度、入院中の食費、障害者福祉、障害者や難病患者の医療費、保育料など、数多くの制度の負担区分に影響が及び、これまでより負担の増える世帯が出てきます(詳しくは「 貧困と生活保護(17)保護基準の引き下げは、低所得層全体に影響する 」を参照)。保護を受けていない人々にとっても他人事ではないのです。(原昌平 読売新聞大阪本社編集委員)

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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