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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

コラム

13トリソミーの儚い命 臍帯ヘルニアの赤ちゃん

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 私が研修医1年目だった頃の話ですから、今から30年前です。小児外科病棟の新生児室に、生まれたての 臍帯(さいたい) ヘルニアの赤ちゃんが搬送されてきました。臍帯ヘルニアとは、臍帯(おおまかに言うと、 (へそ) の緒の中)に腸や肝臓が飛び出る先天奇形です。搬送されてきた赤ちゃんのお臍の部分には、大人の拳くらいの大きさの羊膜に包まれた腸が飛び出ていました。私たちは大急ぎで赤ちゃんを手術室に運び、手術に臨みました。

麻酔が切れても呼吸が戻らない

 赤ちゃんの気管の中にチューブを挿入し、全身麻酔をかけます。羊膜を切開して脱出した腸をお (なか) の中に納め、腹壁を縫い合わせて手術は無事に終了です。比較的短時間で手術は終わりました。ところが麻酔が切れても、赤ちゃんは一向に目覚める気配がありません。

 私たちは1時間以上も手術室で赤ちゃんの覚醒を待ちました。しかし、赤ちゃんは自分の力で呼吸を再開しようとしません。そこで私たちは、赤ちゃんを呼吸器につないだまま新生児室に戻ることにしました。

【名畑文巨のまなざし】   7歳のダウン症のタペロくん、撮り始めからこんなテンションでした。おどけてばかりですが、全然憎めないタイプ。すぐに彼が好きになりました。それは、ファインダー越しに、「心がとても純粋なんだな」と一瞬で感じたからでしょう。その心に引き込まれていくように、夢中でシャッターを切っていました。南アフリカ共和国プレトリア市にて

【名畑文巨のまなざし】
 7歳のダウン症のタペロくん、撮り始めからこんなテンションでした。おどけてばかりですが、全然憎めないタイプ。すぐに彼が好きになりました。それは、ファインダー越しに、「心がとても純粋なんだな」と一瞬で感じたからでしょう。その心に引き込まれていくように、夢中でシャッターを切っていました。南アフリカ共和国プレトリア市にて

 術後の処置が一段落すると深夜でした。私ともう一人の研修医が指導教官に呼ばれました。今夜から、2人が交代でウォッチの態勢に入れとの命令です。ウォッチとは文字通り、赤ちゃんの容態を夜通し見ていることです。その夜は私が病院に泊まることにしました。

 この当時、経皮酸素モニターというものは存在しませんでした。従って、赤ちゃんに酸素が十分行き渡っているかを知るために、皮膚の色をずっと観察しているのです。つまり、自分の目がモニターになるわけです。赤ちゃんの顔色が少しでも悪いと、赤ちゃんの手首に刺してあるA-ラインと呼ばれる動脈カテーテルから血液を少量抜き、それを持って深夜の廊下を数百メートル走って、血液ガス分析装置で赤ちゃんの血中酸素濃度を測定するのです。

 明け方、私は赤ちゃんの顔をじっと見ていました。すると、あることに気付きました。どうも顔つきが独特だ。閉じた目がなにやら小さい気がする。そして、顔の中央に少し寄っている。耳の位置もやや下がっていて、あごに近い。足を見ると、 (かかと) が丸くふっくらと膨らんでいる。

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inochihakagayaku200

いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『呼吸器の子』(現代書館)など。2017年11月、『子どもの病気 常識のウソ』(中公新書ラクレ)を出版。

ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

名畑文巨(なばた・ふみお)

1958年、大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは http://www.fumionabata.com/index.html

名畑文巨さんらのダウン症写真展
ロンドンで開催

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2件 のコメント

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殺戮の戦場と小児外科の戦場を繋ぐ論理

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

人が平和や安全を望むのは、戦争が嫌だからではありません。 戦争よりもやりたいことや守りたいものがあると気づくからです。 だから、血が流れ過ぎたこ...

人が平和や安全を望むのは、戦争が嫌だからではありません。
戦争よりもやりたいことや守りたいものがあると気づくからです。
だから、血が流れ過ぎたことに気が付くと、状況次第では、信念を曲げて休戦や停戦を行います。
一方で、必要と思っていれば、必要に迫られれば、戦争を行います。

案外、盲点ですが、難解かつ現代日本の一般的生活から遠いので、考える人は少ないでしょう。
でも、たかが数百年前の、江戸幕府成立前の日本では戦争が絶えませんでしたし、軍事機構を担う大名に権力があって、今もその名残で、国家機構のもつ暴力の独占が軍隊や警察です。

ノーベル賞でも話題になりましたが、人は核兵器を無くしたいのか、核戦争を止めさせたいのか、全ての戦争を止めさせたいのか、どこに現実的な目標があるでしょうか?
核兵器の非人道的破壊力に目が奪われますが、貧困や通常兵器の殺した数の方が圧倒的に多いわけですし、核の抑止力に核が有効なのも残念な事実です。
日本も米国の核の傘で得た安全の中にいます。

日常電化製品の部品の転用で作られた廉価ロケットがニュースになりましたが、あれは北朝鮮首脳部にとっては日本製ミサイルに見えたことでしょう。

一歩引いてみると、世界はまるで見え方が変わります。

直接生産性のない子供の短い一生と、不必要な大量殺戮を支持する人間のどちらに人道的正義があるのか?

一方で、全世界の平和以上に、自国や地域の安全が必要と言うのは、一般人の感覚です。
そのグループを煽るために、人種、民族、宗教の正義が過度に使われるわけですが、「本文のような小さな戦場のための余裕」は守るべきか否か、間接的に繋がってきます。

無駄の削減、経費削減という時代ですが、線引きを間違えると自分に跳ね返ります。

「平和とは無能が悪徳とされない幸福な時代」
言葉の著作権を訴えられるとまずいですが、敢えて引用しておきます。

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命の意味や価値を決めるのは誰か?

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

事実と感情の論述に留め、価値観の押し付けがない文章というのは、専門家として難しい行為なので、凄くいいなと思います。 カルテと担当医の言葉の他はフ...

事実と感情の論述に留め、価値観の押し付けがない文章というのは、専門家として難しい行為なので、凄くいいなと思います。

カルテと担当医の言葉の他はフィルムと向かい合って、人間的な感情から距離を置いて命と疾患の選別を行う画像診断医もかなり特殊だと思いますが、重症疾患の命のドラマの現場に長くいる医師もまた特殊でしょう。

そういう特殊な経験を善でもなく、悪でもなく、一般人に訴えかけられるのは、現場で仕事してから離れた先生ならではの細やかな配慮次第だと思います。

宋先生の記事も出ていますが、様々な形の「命の選別」や「魂の救済」は誰かが向き合わないといけない現実であり、責任を負う側も負わせる側もモラルと配慮が必要です。
支援者の増加だけでなく、理解できないことが理解できる人や攻撃的な態度をとらない人が増えることもまた重要です。
一番問題なのはナチスよろしく排他的原理主義者の暴走やそれに何も考えていない人が乗っかることです。

ある言葉や行動が、善なのか、偽善なのか、凄く難しい問題です。
発信者と受信者で異なることもあります。
これは凄く大事なことで、個人としても集団としても、短くとも天寿を全うできる生命というのは様々な意味を持つことが分かります。
仮にある項目の答えで対立したとしても、よく考えての意見の相違であれば、まず暴走しません。

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