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[展望 2018]子どもの命 地域で支える

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医療部長 山口博弥

[展望 2018]子どもの命 地域で支える

 宮崎駿監督のアニメ映画「となりのトトロ」。今年4月で公開から30年を迎えるが、今でも親子で楽しめる人気作品だ。

 この映画を、がん患者の心のケアに詳しい精神科医の保坂隆さんは「一見、頼りない父親と病弱な母親を持つ幼い姉妹に、ソーシャルサポートの大切さを教えている」と解釈する。

 「ソーシャルサポート」とは、身近にいて支えてくれる存在のこと。「情緒的」「手段的(道具的)」など、いくつかに分類される。幼い姉妹が悲しい時に寄り添ってくれるトトロは情緒的、行きたい場所へ運んでくれる猫のお化け「ネコバス」は手段的なソーシャルサポート、というわけだ。

 身近にこうした支援者がいるかどうか、言い換えれば「社会とのつながりの有無」は、健康をも大きく左右する。国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)は昨年秋、社会とのつながりが多様な人ほど認知症になりにくい、とする研究結果を発表した。社会的つながりと、死亡率や病気の発症率との関係を証明した研究は海外にも多数ある。

 国が全国で構築を目指している「地域包括ケア」。医療や介護、福祉など地域の様々な専門家らが一体となって高齢者を支えるこのシステムは、社会的なつながりの新しい形といってもいいだろう。

 一つ気になるのは、この構想の中に、子どもの命や健康を守る視点があまり見えてこない点だ。時代とともに、子どもを取り巻く環境は様変わりした。遊び場の減少、親が乳幼児をスマホで遊ばせる「スマホ育児」、発達障害児を持つ親の悩み、児童虐待の増加……。課題は山積している。

 たんの吸引などのケアが日常的に必要な「医療的ケア児」も増えている。滋賀県東近江市の田中 彩愛あやめ ちゃん(4)は脳の障害があり、寝たきり。喉に人工呼吸器を付けている。

 「なんで一緒に保育園に通えへんの?」。姉の 瑞希みずき ちゃん(6)の言葉を受け、両親と主治医の花戸貴司さん(47)、看護師、保健所、市役所、保育園の担当者らが協議。看護師を配置するなどして、昨年1月から彩愛ちゃんは姉と保育園に通えるようになった。

 「地域の一人ひとりが、赤ちゃんから高齢者まで地域のみんなを支える。地域包括ケアというより、『地域まるごとケア』を目指しています」と花戸さん。

 こうした取り組みは徐々に広がりつつあり、さわやか福祉財団会長の堀田力さんや評論家の樋口恵子さんらで作る「にっぽん子育て応援団」は2015年度から、「地域まるごとケア・プロジェクト」として先進地域の調査や提案を行っている。

 社会の宝である子どもたちを、地域のみんなが「トトロ」や「ネコバス」になって支える――。そんな社会の実現を願い、今年の医療ルネサンス年間企画「子どもを守る」で課題や解決策を伝えていきたい。

  医療部  最新の治療法や医療政策など医療・健康問題を取材する専門部署。長期連載「医療ルネサンス」や「病院の実力」などを担当。部員は21人。

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