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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

診療記録をめぐる課題(下) 改ざん・隠蔽には民事賠償、行政処分を

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診療記録をめぐる課題(下) 改ざん・隠蔽には民事賠償、行政処分を

義務違反・過失と推定する新ルールを

  改ざん、隠蔽がばれると、どうなるのか。民事訴訟法224条に、裁判所の文書提出命令に関して「証明妨害」の規定はあります。一方の当事者が証拠として提出すべき文書を出さないときや、故意になくしたり使えなくしたりしたときは、裁判所は、その文書に関する相手方の主張を真実と認めることができ、状況によっては相手側の裁判上の主張を真実と認めることもできます。つまり、証拠妨害を行ったと認められると、裁判で大きく不利になるのです。

 それに近い判断をしたのは05年12月15日の福岡高裁判決です。「救命措置の時間的経過について医療機関が客観的資料を何一つ提出できないという事態は…(中略)…担当医らの救命措置における注意義務違反を推認させるという不利益を被控訴人(病院側)が負うべきである」としました。

 しかし、多くの裁判では、改ざんや隠蔽の疑いがあっても医療側の敗訴に直結せず、他の証拠と照らし合わせた裁判所の判断にゆだねられているのが実情です。それでは、診療が妥当だったのかという法的判断以前の事実経過をめぐる争いによって、裁判自体も長引きます。

 裁判所の自由裁量にゆだねるのではなく、記録に改ざん・隠蔽の疑いがあれば、それだけで医療側に義務違反や過失があったと推定する(反証がなければ認定する)ルールを導入するべきでしょう。医療訴訟に詳しい石川寛俊弁護士(大阪)によると、中国では13年にそういう法改正が行われたそうです。

慰謝料などの上積みも

 改ざんや隠蔽に対する民事上のペナルティーとして、現行法で可能な別の方法は、判決で患者・遺族への賠償額を多めに算定することです。一般的には慰謝料(精神的苦痛に対する賠償)です。

 判例では、原告の請求全額を認めた例(12年10月25日、東京地裁)、慰謝料3000万円を含めて請求にほぼ近い額の賠償を命じた例(03年11月28日、東京地裁)、医師の倫理に反する行動を考慮して2800万円の慰謝料を算定した例(02年12月18日、東京地裁)、カルテ改ざんで事案解明に多大な労力を要したとして慰謝料2000万円に加えて弁護士費用930万円を認めた例(02年12月12日、仙台地裁)があります。

 患者・遺族側は、記録の改ざんや隠蔽、虚偽説明を、独立した不法行為として賠償請求しておくべきです。その部分だけ勝てる場合もあります。医療過誤は認めなかったものの、改ざんと偽証工作、虚偽説明の慰謝料1700万円の賠償を命じた例(04年1月20日、甲府地裁)、虚偽の事後説明を理由に慰謝料など約500万円の賠償を命じた例(14年12月10日、高松地裁)もあります。

行政による制裁を求めよう

 もう一つ重要なのは、改ざんや隠蔽にかかわった医療従事者への行政処分です。厚生労働大臣が医道審議会にはかったうえで免許取り消し、業務停止、戒告の処分をします。罰金以上の刑事罰の確定、医事に関する不正、品位を損ねる行為などが対象で、診療報酬の不正受給でもしばしば処分されますが、民事判決や独自の調査をもとにした処分は、ほとんど行われていません。先に挙げた判例で改ざんを認定された医療従事者も、偽証などで刑事罰を受けたケース以外は処分されていないのです。

 厚労省が消極姿勢なのは、情報をつかむルートがないのも一因です。刑事罰が確定すれば検察庁から情報提供がありますが、民事の判決などはつかめません。そうであれば、不正行為を知った関係者や弁護士は厚労省医事課に連絡することです。15年度に改正施行された行政手続法で、法令違反を知った人は誰でも「処分等の求め」を行政機関にできることになっています。あわせて、医師法、歯科医師法、医療法が定めている記録の保存義務違反に対する罰則の発動を促すべきでしょう。

 さらに社会的制裁として、医師会や病院団体などによる処分も行うべきです。放置していると医療全体の信用が低下してしまいます。(原昌平 読売新聞大阪本社編集委員)

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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