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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

診療記録をめぐる課題(下) 改ざん・隠蔽には民事賠償、行政処分を

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 医療をめぐる民事訴訟では、診療が妥当だったかどうかという医学的な評価より前に、いつ、何があったのかという事実経過が争われることが、よくあります。その際、カルテ(診療録)をはじめとする診療記録は重要な証拠になります。

 ところが、その記録が改ざんされたり、一部が隠蔽されたりするケースが少なくありません。事実をゆがめる行為がまかり通っていたら、被害者は救われず、社会正義は実現しません。改ざん・隠蔽をなくすには、刑事処罰の明確化に加え、やった側が民事訴訟で不利になる運用を強めること、かかわった医療従事者への行政処分をきっちり行うことが重要です。

民事でも許されぬウソや隠し事

 このごろは、相手に勝つためなら何をやってもよいと考える風潮があり、一部の弁護士の言動がそれを助長しています。しかし契約を交わすなど社会的なかかわりのある相手に対し、裏切っても、ごまかしても、ウソをついてもいいと考えるのは間違いです。民法1条は「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」という大原則を定めています。

 医療は、民法上は「準委任契約」とされています。医療側は、誠実に診療を行う義務があり、うまくいかなかった場合も、その経緯を患者や遺族に正しく報告する義務があります。刑事捜査に対しては黙秘権がありますが、診療契約上、患者や遺族に対して事実を隠す権利はありません。

 裁判になったらどうか。民事訴訟法2条は「当事者は、信義に従い誠実に訴訟を追行しなければならない」としています。言い分は主張していいけれど、ウソや隠し事はいけないのです。

不正認める判決は氷山の一角

 ところが現実はどうか。2000年以降に出た民事の判決で、医療側による改ざんや隠蔽を認定するか、その疑いを指摘して記録内容の信用性を否定したものを判例雑誌、判例データベース、読売新聞の記事から集め、22件をまとめてみました=表(1)、(2)=。

 後から記述を書き加えたケース、書き直したケースが目立ち、前回紹介した電子カルテの改ざんもあります。あるはずの記録が出て来ないケースもあります。国公立の病院も少なからずあります。

 すべての判決が判例雑誌や新聞などに載るわけではなく、ほかにも改ざんを認定した事例はあると思われます。一方、患者・遺族側が改ざんの疑いを主張したものの、裁判所が認定しなかったケースも多数あります。

 患者や遺族は、診療記録を個人情報保護制度による開示請求か、裁判所を通じた証拠保全で入手します。そこで自分の体験と違うことが書かれている、どうもおかしいと感じても、改ざんや隠蔽があったことを示すのは容易ではないのです。一般的には、記載の不自然さや、経緯から見てつじつまの合わない点を指摘して、裁判所に判断してもらうしかありません。

 大阪の弁護士グループが04年、患者側での代理人を務めた全国の弁護士約700人に実施したアンケートでは、過去に体験した改ざん・隠蔽の事例が57人から109件、寄せられました。判決で不正が認められるのは氷山の一角でしょう。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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