心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
『あっ』『明るい』…失われた視覚に差し込んだ「光」
親友夫婦が訪ねてきた翌日…脳の潜在能力への希望
それから約1年後、私への受診を仲介した看護師から、「中島さんは随分回復しているらしく、ものを見る反応も出てきました」と知らされました。
ご家族に問い合わせてみたところ、「(中島さんは)障害教育の専門家から筆談法を学び、トレーニングを続けたところ、介助を受けながら名前などを書けるようになった」というのです。
さらに、中島さんの高校以来の親友夫婦が訪ねてきて、半日一緒に過ごした翌日から、視覚に変化が現れたそうです。
「基樹が驚きの表情で、『あっ』というような声を発したので、どうしたのかと聞いたところ、『明るい』と答えました」。――中島さんのお父さんはその時のことを、感激を込めて説明してくれました。
中島さんはその後も、ありとあらゆる施術を試みて、聴覚や視覚からの情報の入力量を次第に増やしていきました。今では、自分の意思や心象を伝える手段として、介助を受けながらも、文字やペン画も描くようになったとのことです。
地元で個展を開いたり、「いいことカレンダー」を作ったりするなど、彼の脳は信号のやりとりを確かに始めました。
中島さんのような回復は、誰にでも見られるわけではないでしょう。しかし、条件がそろえば、人間の脳は驚異的な潜在能力や回復能力を秘めているのです。この事例は、新春にふさわしい、希望のある話題だと思い、読者の皆様にお届けしました。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)
〈「いいことカレンダー2018」の問い合わせは、Email: tryecoto415@gmail.com 中島依子さんまで〉
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