精神科医・内田直樹の往診カルテ
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精神科患者の家族の高齢化を支える
大学病院に勤めていた頃、高齢の親に付き添われて長年来院する統合失調症の患者さんを何人も診ていました。親御さんの陰に隠れるように、最低限の言葉を返すばかりの患者さんたち。10年後、15年後、この患者さんたちの生活はどうなるのだろう、と重苦しい気持ちにもなっていました。今回は、この患者さんたちの遠くない将来を垣間見ることになった話です。
父親がアルツハイマー病となり、子どもが精神科に行けなくなった
在宅の精神科医となって出会ったAさん(81)には、20代前半から統合失調症を患っている息子さん(55)がいます。
息子さんの通院には、ずっとAさんご夫婦が付き添っていました。20年前に奥さんが他界してからは、Aさんが1人で連れてきていましたが、1年ほど前から、徐々に受診間隔が空いてきました。心配した外来看護師が電話をすると、息子さんが1人で来たりもしましたが、それも途絶えたそうです。
このお二人にかかわるようになったきっかけは、近所の店員さんが地域包括支援センターに相談したことでした。

「昔から毎日買い物に来るAさんの様子がおかしい。いつまでも店内をうろうろして、話しかけても要領を得ない。1日に何度も同じものを買いに来たり、財布がないことに気づいて家に取りに帰ると、そのまま戻ってこなかったりする」
センターの職員がAさん宅を訪ねると、足の踏み場もないほど物が散乱し、床は湿ってカビが生え、ゴミの悪臭が漂っていました。
Aさんは高校の数学の教師でした。定年退職後も教え子たちが訪ねてくるなど、誰からも慕われていたようです。奥さん亡き後も、息子さんと一緒に散歩をしたり、スーパーに買い物にでかけたりしていました。ところがあるときを境に、息子さんに付き添って病院に来ることも、近所の寄り合いに顔を出すこともなくなり、自身の高血圧のための通院もしなくなりました。
センターからの診察依頼を受けてAさん宅を訪ねると、拒絶する様子もなく迎え入れられましたが、体調などを尋ねても、「何ともない」の一点張りです。検査をすると、軽い栄養障害程度。ほかの血液検査や神経には異常は認められません。ただ、認知機能障害が進行しており、中等度のアルツハイマー型認知症と考えられました。
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クローズアップ現代で福岡の精神科訪問のチームを取り上げられていて、検索してこちらのブログにきました。テレビの音だけ聞いていたので違う団体であったらスミマセン。
精神科にも訪問診療があるのだということを知らなかったです。
ブログを読ませていただいたら、精神科領域においても在宅での診療の力の大きさを感じました。
私は医療従事者ではありませんが、素晴らしい取り組みだと感じました。もっと増えていくといいだろうなぁと思います。
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