安心の設計
介護・シニア
介護との両立 社員に提案…産業ケアマネ、職場の実情熟知

「産業ケアマネ」として介護と仕事の両立をアドバイスする長田裕美子さん
◇変わる働き方
家族の介護・看護で離職する人は年10万人。親の介護に直面するのは働き盛りの世代が多く、企業にとって重要な課題です。そうした中、社員に介護生活と仕事の両立に向けた具体的なアドバイスを行う「産業ケアマネジャー」という新しい仕組みを導入した企業があります。(滝沢康弘)
■企業が相談会開催
東京海上日動火災保険(東京)では昨年11月から、介護と仕事の両立に不安を抱える社員向けに、「産業ケアマネジャー」による個別相談会を開いています。従業員の健康を支える「産業医」のケアマネ版を目指した独自の取り組みです。「介護分野の専門知識に加え、就業規則で定められた休暇の制度など社内ルールにも詳しく、両者を組み合わせてアドバイスできるのが強み」(人事企画部次長の中井章雅さん)。グループの介護事業会社に所属するケアマネジャーの資格保有者で、研修を受け、社内試験に合格した人が産業ケアマネを務めます。
相談会は1回50分の予約制で毎月、平日の夕方や土曜に設定。対面以外にも、タブレット端末などのテレビ電話機能を使って相談もできます。相談者の承諾なしに上司や人事の担当部署に内容が伝えられることはありません。
産業ケアマネの 長田 裕美子さんは「仕事を続けながら介護をしていく方法はある。複数の選択肢を示す形で情報提供している」と話します。夜間や休日の介護負担が重くなり、睡眠や休息がとれなくなって仕事に支障が出る前に、「親の足腰が弱ってきたり、外出が少なくなったりと、介護が必要となる兆候が出始めたら、心の準備のためにも相談に来てほしい」と呼びかけています。
■「心の支え」に
80歳代の父母と同居する本社勤務の50歳代女性社員は、今年2月に産業ケアマネに相談しました。
父親の認知症が進み、平日の日中、母親が買い物や通院で外出する際に、家に一人で残すのが不安になってきたためです。自宅を出て戻れなくなり、保護されたこともあるそうです。父親を担当するケアマネはデイサービスの利用を勧めていますが、「行きたくない」と拒否され続け、困っていることを伝えました。
産業ケアマネから「いろいろな人と接する機会を作ってみては」と、歩行訓練などの訪問リハビリの利用を提案され、現在も続けているそうです。女性社員は「ほかにどういう選択肢があるのか、すがる思いで行ったが、相談してよかった。産業ケアマネは心の支えになる」と話します。
ほかにも、相談内容に応じて「時差出勤制度を使い、親がデイサービスに出かけるのを見届けてから出社する」「テレワーク制度を使っての自宅勤務」「社内の費用補助制度でホームヘルパーを活用する」など、具体的に提案しています。
同社が行った実態調査では、「10年以内に可能性がある」という人も含め、社員の7割が介護に直面しうる状況にあるという結果が出たそうです。「以前は、男性社員が自分の両親の介護を専業主婦の妻に頼むケースが多かったかもしれないが、共働きが当たり前となり、誰もが介護を担いながら働く可能性がある時代になった」(中井さん)。介護に直面しても、フルタイム勤務で活躍できるように、両立支援制度の拡充とともに、職場の雰囲気づくりも課題と認識し、取り組みを進めるとしています。
[記者メール]相談せずに離職48%
厚生労働省の昨年度の委託調査では、介護を理由に仕事を辞めた人の48%が離職前に誰にも相談していませんでした。上司や人事部に相談した人は24%。会社では言い出しにくいと感じている人が多そうです。
今回、東京海上日動火災の社員向け介護セミナーにもお邪魔しました。「早めに心構えを」ということでしょうか、20~30歳代の参加者も多く、驚きました。年代に関係なく、「自分もいつか直面しうる問題」という意識が共有されることで、介護と仕事の両立がしやすい職場が広がっていくことにもつながりそうだと感じました。(滝沢)
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。