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室伏由佳のほっこりスポーツカフェへようこそ

コラム

新しい自分に出会う旅へ出ます!

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 みなさん、ほっこりスポーツカフェへようこそ。しばらくカフェをお休みしていました。久しぶりの開店です。とっても寒いですね……。入れたてのコーヒーとともに、ほっこりお付き合いください。

 まもなく今年もクロージングを迎えようとしています。みなさんにとって、2017年はどんな一年でしたか? わたしは、一年がスタートした元日の気持ちを思い返しています。

新しい自分に出会う旅へ出ます!

スポーツの体験を通し、全国各地、様々な人たちとの交流へ。12月の空の旅、徳島県上空からの美しいワンショット

 今年は、必ず続けようと思ったことが一つあります。それは、思ったことを後回しにせず、すぐに「実行に移す」です。これは、日常のどんな小さなことでも、可能な限りそうするように心掛けました。すごく大変だし、100%はできません。もちろん、失敗するときもあります。でも、考えたこと、思いついたこと、気付いたことをすぐに実行してみました。判断力を養い、自分自身をマネジメントする力がより高まるのではないかと考えたからです。

「後回し」にする自分を変えたかった

 実は、わたしは20代前半の頃まで、とても面倒くさがり屋でした。生活面でも、大切な競技トレーニングでも、「今日は、これくらいで」と加減してしまうことがありました。いろんなことを「後回し」にすることがとても得意。他の人に影響を与えることでなければ、迷惑にならないだろう、そう思っていました。

 しかし、アスリートとしては、あまり良いことではありません。その「後回し」が要因で、大会で実力が出せない失敗が続きました。そろそろ試合も近いし……と、直前に慌てて試みても、うまくいかないのです。

 自分の都合で手抜きをした結果。当然なのですが。これ以上の失敗をしたくない、というぐらい競技会で大失敗を繰り返しました。とうとう追い込まれ、自分自身を見直す決意をしました。大学を卒業し、会社に所属して実業団アスリートになる頃のことです。

日常の何気ないことが大切

 自分を変えたい、変わりたいと願ったけれど、一体何から手をつければいいのか? 

 当時は競技の成績を残すことが一番大切なことでした。「わかっていても、実行しない」ということは、競技に向けて「やることは分かっている」わけです。しかし、わたしには、もう少し広く物事を捉えないと、できそうなことだけに偏ってしまうとも感じられました。競技以外のこと、つまり日常生活での意識を変えることが、一番良い方法なのではないかと考えたのです。

 少しずつ、やれそうなことを実行することからスタート。たとえば、食後、お皿洗いはすぐにやるとか、トイレ掃除は毎日とか、一緒に暮らす家族が過ごしやすいように何かを準備しておくとか、そうした日常の何げないことです。一つずつ、できることを増やしていき、やがて幾つものことができるようになっていきました。人はトレーニングによって変われるのです。そして、かつての自分には、もう戻りたくないとも思いました。

奇跡は期待しても起きない

 現在の私の研究は、スポーツ心理学の領域です。試合前や試合中の「情動」や「感情」のコントロール方法についてのテキストがたくさんあります。そのなかに、「縁起をかつぐ」という方法の実例があります。たとえば、お守りを身に着け、試合に挑む。これは、仏教のなかにある因縁生起(物事は直接、間接の要因が働いて生ずること)に (ちな) んでいて、以前に何か良いことがあったら「そのことを繰り返してみよう」と行動する人の心理的な側面を示しています。たとえば、優勝した時のユニホームやシューズを身に着けるとか、調子が良かった時の練習方法を大会前に繰り返すなど、さまざまなものに縁起を担ぎ、不安感を抑制する認知行動です。

 わたしは以前、これとこれを頑張ったから(努力)、ご褒美が欲しいな(報酬=大会でのいい成績)と考えていました。よこしまですね(笑)。「なにか大会に向けて良いことが起きないかな?」などと期待していた面もあったと思います。でも、奇跡は起こらない。

 日常生活で自分自身の行動の仕方を変えるよう努めること。その繰り返しによって、競技を含めた物事への捉え方も変わる。それが一番大切だと、分かってきました。誰かが見ていなくてもがんばれるかどうか。条件付きでないと人はなかなか行動できないとも感じますが、それでは続かないし、本当に変わることにはつながらないと感じたのです。そうした認識を高めていって、努力と継続が見えてきました。

 それまでコーチである父が計画するトレーニングプランを全てこなすことが難しい私でしたが、手抜きすることなく、ほぼ全て実践できるようになりました。その冬期トレーニングの時期に培った心技体の総合力や、実践できた経験が自信になり、オリンピック出場条件となる国際水準の記録に到達したのです。

 「最後まで、諦めず実践して本当によかった!」。自信のなかった自分が変わり始めました。

スポーツで得た体験を多くの人に伝えたい

 逆にいえば、「オリンピックや世界選手権に出場すること」「できるだけ記録を伸ばすこと」という目標のために何でもやろうと考えたことが、面倒くさがり屋で長続きしない自分を変えることにつながったのです。競技を引退して今年で5年の歳月が () ちますが、そうして身に付けた実行力、継続力は、研究者としての研究活動やお仕事に大いに生かされています。

 そして、スポーツで体験したことを講演や講義などでお話しする機会をいただいています。誰にも見られていない練習場で、自分と自分の弱さと向き合い、円盤やハンマーを投げ続けたあの一瞬にかけた時間。当時は、自分のために身に付けたものではありましたが、あの一瞬にかけてきた経験をお伝えすることで、何かの役に立てていただきたいと感じた一年でもありました。

 わたしは、これからまた新しい自分に出会うために、そして、もっとたくさんの人に伝える実践力を養っていきたいと思います。そのために、ここでほっこりスポーツカフェを閉店し、「買い付けの旅」へ出発します。いつかまた、みなさんと 美味(おい) しいコーヒーとともに、ほっこりできる日を楽しみにしながら!(室伏由佳 アテネ五輪女子ハンマー投げ日本代表)

*「室伏由佳のほっこりスポーツカフェへようこそ」は、今回で終了します。

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室伏由佳(むろふし・ゆか)

 1977年、静岡県生まれ・愛知県出身。株式会社attainment代表取締役。2004年アテネオリンピック女子ハンマー投げ日本代表。円盤投げ、ハンマー投げ2種目の日本記録保持者(2016年4月現在)。12年9月引退。

 アスリート時代には慢性的な腰痛症などスポーツ障害や婦人科疾患などの疾病と向き合う。06年中京大学体育学研究科博士課程後期満期退学(体育学修士)。スポーツ心理学の分野でスポーツ現場における実践的な介入をテーマに研究。現在、スポーツとアンチ・ドーピング教育についてテーマを広げ、研究活動を継続。現在、上武大学客員教授、朝日大学客員准教授や、聖マリアンナ医科大学スポーツ医学講座、徳島大学医学部、中央大学法学部など、複数の大学において非常勤講師を務める。スポーツと医学のつながり、モチベーション、健康等をテーマに講義や講演活動を行っている。日本陸上競技連盟普及育成部委員、日本アンチ・ドーピング機構アスリート委員、国際陸上競技連盟指導者資格レベルIコーチ資格、JPICA日本ピラティス指導者協会公認指導師。著書に『腰痛完治の最短プロセス~セルフチェックでわかる7つの原因と治し方~』(角川書店/西良浩一・室伏 由佳)。

公式ウェブサイトはこちら

室伏由佳のほっこりスポーツカフェへようこその一覧を見る

2件 のコメント

スポーツマーケット拡大と雇用創出のために

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

お世話になったお礼に、もう一つ、幅を広げるヒントをご紹介します。 人口減少社会の中で、ビジネスも教育もスポーツも役割が変わり、ヒト、モノ、カネ、...

お世話になったお礼に、もう一つ、幅を広げるヒントをご紹介します。
人口減少社会の中で、ビジネスも教育もスポーツも役割が変わり、ヒト、モノ、カネ、情報の繋がりや場所の提供の意味合いを増しています。(プラットフォーム戦略)

ドイツだとアマチュアサッカーでも試合給とか出ますが、副業解禁の企業も出てくる中で、選手や指導者、スタッフをやる社員の応援もしてほしいですね。
その繋がりは仕事や雇用、教育のネットワークを産み、非行や薬物乱用防止のセーフティネットにもなります。

名選手必ずしも名監督ならず、と言いますが、自分の個性や立ち位置をよく理解して柔軟にやり方や生き方を考えられるかも重要です。
スポーツ指導や育成の現場の問題はニュースにも出ますし、自分も目にしたことありますが、殆どが優勝争いの敗者でアマチュア止まりである以上、順位は健康や成長程に重要ではありません。
しかし、わかりやすい数値目標無しに気分が上がらない人も多く、失敗や敗北、痛みの経験が他人の状況や感情への洞察を深めます。

一部の競技や指導者に蔓延するフィジカル神話が競技参加人口を減少させ、関連産業全体の衰退に繋がるため、新しい競技や育成年代ルールの創出が必要です。

また、欠点を持った人間の方が工夫します。
下手な指導者よりも沢山の指導書を読みこんだ選手なんて僕以外にも沢山いるでしょうが、趣味に必要な事だから読書習慣も身につくし、その知識や発想を仕事にも応用させられます。

ちなみに欧州血管造影学会CIRSEは本来は学術の場で、研究業績を認められて、会員の紹介でないと入会できないのですが、サッカー大会で4回優勝を手伝った評価でスペイン人に紹介してもらいました。
長く続けていると思いがけない幸運もあります。
とはいえ、現在と未来を繋ぐのは過去から積み重ねてきた努力の成果でしかないと思います。
因果関係は見えにくくても。

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個性の仕組みと生き方の幅の模索

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

先手必勝か、後手必勝か? 人にはそれぞれのスタンスがあります。 サッカーのポジションも、子供の頃の性格と社会形成でなんとなく決まって、続けている...

先手必勝か、後手必勝か?
人にはそれぞれのスタンスがあります。
サッカーのポジションも、子供の頃の性格と社会形成でなんとなく決まって、続けている人は多いです。
学生までのサッカーで、そこまで精緻に取り組める選手や指導者が多くないからです。
世界トップレベルなら、国内外を問わずそのセオリーを超越した選手の比率が上がります。
また、ベテランになるほどに、人生経験の中から様々な技術や戦い方を覚え、手札を増やしていきます。
日本人は総じて器用なので、日本人の技術としては80点で90点の選手には勝てなくても、海外のリーグに出ると、90点扱いになることもあります。
技術や評価の相対性の問題で、頭で理解して、メンタルブロックや偏見を外していく作業が必要になります。
一方で、小さい頃の何かを積み重ねる作業はメンタルとフィジカルのブロック(違う意味のブロック)を積み重ねていく作業でしょう。

どうやって、積み重ねと詰み減らしを調整していくか?

そういう意味で、現在までの自分の個性やジンクスにこだわるのも大事なら、それらを捨てて新しい習慣や個性の創出に取り組むのも大事です。

先日、漫画で、スポーツの好きな子供の自信を打ち砕いて学習塾に漬け込むシーンがありました。
スポーツで飯が食えるのは一握りですが、心身の鍛錬の他、習慣や発想の転換を持つためにも、勉強かスポーツかの安易な二元論に持ち込むような表現は良くないと思いました。
興味か必要性が長期的なエンジンになるわけで、勉強は必要でもスポーツを捨てさせると非行や薬物に走る可能性が上がるだけです。
親と社会の都合だけで生きられるほど、子供や若者は強くないです。

肉体と心と物質と習慣の関係性は複雑ですが、アスリートと技術者に共通の項目でもあります。
必ずしも、スポーツに固執せず、他のものと比較する形で仕事にされるほうがいい可能性もあります。

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