麻木久仁子の明日は明日の風が吹く
医療・健康・介護のコラム
「食」のあり方が心と体を豊かにする
人も自然のバランスと循環の中に
薬膳の基本である中医学(中国伝統医学)は、陰陽説を大切にしています。浅学の身でありながら、それを 敢 えて一言で表すならば「すべてはバランスが大切」ということです。世のすべての陰と陽が、絶えず対立したり依存しあったりしながら、つねに変化しつつ、また元に戻る循環の中にいてバランスを保っているという考え方で、当然、人間もその中にあります。
現代社会は環境も良くなり、医学をはじめとした科学も発達し、陰陽説のもとに生きた、いにしえの人々に比べたら、そういう感覚は薄れたかもしれません。それでも四季の移り変わりの中で、しみじみと感じさせてくれることもあります。
12月22日は冬至でした。冬至というのは夜が最も長く、“陰”が最も盛んな時です。実は、陰が極まったときこそ、一転して“陽”の生まれる時でもあるとされています。うんと寒いときがあるからこそ、暖かさが生まれるというのです。いまこの世のどこかで芽吹く時を待つ“陽”が、ひっそりと生まれていることを想像すると、ひときわ春が待ち遠しくもなります。
気温はこれからまだぐっと下がりますが、季節は春の種を宿しはじめているということです。つねにバランスを保とうとする動きがあって、その中に素直に身を任せて自分自身のバランスも穏やかに保つと、健やかに生きていけるような気がします。
残りの人生 美味しく楽しく
まだ若いころ、仕事でとてもお世話になった方に、食事に誘ってもらったことがありました。その方はがんの治療を終えて復帰したところだったのですが、一緒にご飯を食べながらこんなことをおっしゃいました。
「病気を乗り越えて今、残りの人生であと何回ご飯を食べられるのかな、とよく思うのです。いずれにせよ限りある大切な機会なのだから、もうこれからはつまらないものをなんとなく食べたりはしないし、つまらない人とうわべの会話をしながら食べたりもしないことにしたんですよ。 美味 しく、楽しく食べますよ」
まだ若い私は、その大切な1回の食事をともにしてくださったことに感謝しつつも、その心境は本当にはわかっていなかったと思います。それでも、その言葉は心にずっと残っていて、自分が病気をしてみて、やっと 腑 に落ちたような気がする今日この頃です。
その方はがんが再発し、治療の 甲斐 なく他界されました。大事な1回を私にくださったことを後悔していらっしゃらないとよいのですがと、ふと思います。私自身が、楽しく美味しくご飯を食べることの大切さを見失ったら、天国から怒られそうな、がっかりさせてしまうような気がしてしまうのです。
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