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高齢者支援、民間も活用…銭湯へ巡回バス、市が後押し
高齢者の生活を地域でどう支えていくかは、多くの自治体にとって大きな課題だ。愛知県 豊明 市は昨年から、介護保険サービスとは別に、民間事業者が提供するサービスを活用し、お年寄りの居場所作りなどを積極的に進め、注目を集めている。現場を訪れ、取り組みの内容と背景を探った。
■1日3便
「市内から銭湯まで無料の巡回バスが1日3便あります」――。豊明市の職員は昨年から、地域で年100回以上行う介護予防などの講座を利用し、こんなふうにして、名古屋市緑区のスーパー銭湯「楽の湯みどり」の利用を呼びかけている。場所や施設の概要が示されたチラシを配布するだけでなく、バスの停留所や時刻表などの情報提供もしている。
豊明市は、事業者にもバス経路の変更や延長など、高齢者の要望を提案して実現させた。バスの利用客は以前の倍以上に増えた。事業者は、お年寄り向けの体操教室の定期的な開催も検討している。
銭湯の利用を市が後押しすることについて、市高齢者福祉課の松本小牧さんは、「銭湯には浴場と食堂があり、休憩スペースもある。入浴、食事、レクリエーションがある介護保険のデイサービスのように、高齢者の居場所になれる」と狙いを話す。
■無料宅配サービス
市は、市内の生協「コープあいち とよあけ店」とも連携し、商品の無料宅配サービスを実現させている。65歳以上の登録者を対象に、店舗を訪れて購入した全商品を無料で即日配送(月~金曜日)するサービスで、2016年4月にスタートした。
無料宅配サービスは以前からあったが、生鮮食品は対象外。頻度も週1~2日だったが、市が交渉して「全商品・即日配送」を実現させた。利用者の女性(85)は「健康にいいので、歩いて買いに来たいけど、ペットボトルなどが重くて大変だったので、助かります」と話す。
市は、スーパー銭湯と生協を含めた9事業者と取り組み推進の協定を結んだ。今後も増やす予定だ。
介護保険と組み合わせる
市が、民間サービスを積極的に活用する背景には、二つの問題意識がある。
一つは、「介護保険サービスだけでは、自立に向けた効果が限られてしまうのではないか」という懸念だ。市が、介護の必要度が最も低い「要支援1」の人について、利用から1年後の体調変化を調査したところ、6割弱はより手厚い介護が必要になっていた。
市高齢者福祉課は、「多くがデイサービスやヘルパーといった保険サービスを利用していたが、効果に疑問を抱かざるを得なかった。様々な支援を組み合わせて支えるべきだと考えた」という。
もう一つは、財源だ。お年寄りの中でも、特に高齢とされる75歳以上では、介護サービスのニーズが格段に高まる。25年の75歳以上人口は16年より約4割増え、25年度の介護保険給付は59億円と、16年度の約1.6倍に膨らむ見通しだ。限りある財源や人材を有効活用するには、介護の必要度の低い人には民間サービスの活用を含めて支えることも必要と考えた、という。
同課は、「行政が特定の企業サービスを推進することは癒着になりかねないとして、二の足を踏む自治体は少なくない。ただ、豊明市は、介護保険サービスに利用者を当てはめがちだった高齢者支援を見直し、地域の事業者とともに生み出すため、一歩踏み出した」と話す。同市の取り組みは注目され始めており、国や地方議会などの視察も相次いでいる。
介護保険を巡っては、高齢化に伴い、保険財政の悪化だけでなく、「サービスの利用が必ずしも自立支援につながっていない」という指摘も根強い。市の取り組みは始まってからまだ1年。その効果はまだ分からないが、公的保険と民間サービスをうまく活用して高齢者の生活を支えようという取り組みは、ほかの自治体の参考になりそうだ。
(板垣茂良)
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