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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

診療記録をめぐる課題(上) 保存義務期間が短すぎる

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 医療において、診療記録はとても大切です。診療や看護を適切に進める土台になり、チームとして情報を共有するのに、正確な記録やデータは欠かせません。診療記録があってこそ可能になる研究は多いし、診療報酬請求の裏付けにも記録が必要です。

 また、患者側から開示請求があれば、医療機関は応じる義務があります。医療過誤の有無について患者・遺族と医療側が争いになると、事実経過を確かめるための基礎資料(証拠)になります。診療記録は医療の透明性・科学性の支えであり、記録された情報は患者のものでもあります。

 ところが、診療記録に関する法制度には不備が多いのです。法律によって保存義務期間がまちまちなうえ、その期間が短すぎます。早急に法律を見直す必要があると思います。

まちまちで矛盾もある法律上の規定

 診療記録とは、医師や歯科医師が書く診療録(カルテ)だけではなく、看護記録、検査データ、画像フィルム、処方せん、手術記録などを含め、患者が受けた医療に関する一切の文書やデータです。

 そのうちカルテについては医師法、歯科医師法が、病院・診療所の管理者に5年間の保存を義務付けています(違反は50万円以下の罰金)。ここでいう5年間とは、一連の診療が終わってから5年間と解釈されています。

 健康保険法に基づく保険診療のルールを定めた療養担当規則は、診療に関する帳簿・書類その他の記録について、診療完結の日から3年間(カルテは5年間)の保存を医療機関に義務付けています。ところが診療報酬の不正受給が発覚した場合、行政側は、最大で過去5年分まで返還を求めることができます。その調査にはカルテ以外の書類や記録も必要なのに、3年で廃棄されていて調査できない事態も生じるわけで、同じ法制度の中なのに整合性がありません。

 医療機関のあり方などを定めている医療法と同法施行規則は、病院(ベッド数20床以上の医療機関)に限り、診療に関する諸記録について過去2年分の保存を求めています(違反は20万円以下の罰金)。診療所(クリニック、医院)には、その規定がありません。すると、たとえば美容外科や正常出産のように、診療所で保険の利かない全額自費の診療をした場合は、健康保険法による保存義務もなく、カルテ以外の記録は、すぐに捨ててもかまわないことになります。それでよいのでしょうか。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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