心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
ダウン症の子どもの目を守るには…「生存権」から考える
前回のコラム( 「すべての国民の生存権」…様々な視覚障害者を救う根本の精神とは )で、日本国憲法25条の「生存権」の精神は病気の患者、障害者を含めた全国民を対象にしており、国はその権利を実現する義務があることを述べました。
私は「生存権は現在の社会の中で、まだ十分には実現されていないな」と感じていますが、そのきっかけの一つは、友人の小児科医・ 小口 弘毅さんから送られてきた「みんなのあしたはキラキラ」(ダウン症のある子どものご家族のみなさんへ)と題された冊子をめくっていた時でした。
早期の医療と保育…リハビリ専門家などとチームを組む必要
その冊子には「ダウン症では早期療育が大切だ」と書かれていました。この場合、療育とは、障害を持つ子どもが自立できるように医療と保育を行うことです。
ダウン症では、程度の違いはありますが、運動能力の発達の遅れ、食事や作業における不都合、精神発達の遅れ、感覚器の異常などがあります。
感覚器の異常のうち、難聴や発語の問題などは、耳鼻咽喉科での対応が大切です。目については、近視や乱視などの高度な屈折異常、斜視、 眼瞼 の異常、目が勝手に揺れる「先天眼振」、先天白内障などの問題が起きることがあります。眼瞼の異常には、まぶたが目の内側へ反転して、まつげが眼球にあたる「内反」、まぶたが外側に反転してめくれた状態になる「外反」や、両目の内側に 皺 ができる「内眼角 贅皮 」などの症状があります。
目の問題の中で、屈折の矯正、つまり適正な眼鏡を利用することは、視覚から脳への情報入力の質と量を高めますから、早期から対応すべきです。同じ理由で、先天白内障、斜視についても、できる限り早く発見して対応すべきです。
このように、目を含めて、全身にわたる種々の問題が生じる可能性があります。しかし、検査も療育も容易ではないので、医師だけではなく、看護やリハビリなどの医療専門職(コメディカルスタッフ)とチームを組んで、継続的な対応を行うことが求められます。
アメリカなどでは、こうした医療専門職が参加する拠点を用意しながら、ダウン症の親子をサポートするプログラムが作られます。こうした取り組みには、公的な助成が必要ですが、「みんなのあしたはキラキラ」には、日本はそこまで追いついていない状況であること、もっと「多様性を認める社会」になってほしいことが書かれていたのです。
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