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遺伝子操作で免疫細胞強化…米承認の新療法、「薬価5300万円」など課題

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遺伝子操作で免疫細胞強化…米承認の新療法、「薬価5300万円」など課題

 自分の体内の免疫細胞を取り出し、遺伝子操作して攻撃力を高めてから体内に戻す「 CARカーティ 治療」と呼ばれる新しい免疫治療が、一部の白血病を対象に米国で承認された。開発企業は来年中にも、国内で承認申請する見通しだ。(森井雄一)

これまでの免疫療法、十分な効果得られず

 がん患者からリンパ球などを取り出し、増やして体内に戻す免疫療法は、これまでにも試みられてきた。ただ、がん細胞が免疫から逃れる仕組みを手に入れたり、戻す免疫細胞の数が足りなかったりして、十分な効果を得られなかった。

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 CAR―T治療は、患者から取り出したリンパ球の一種「T細胞」を遺伝子操作し、〈1〉白血病細胞の目印を認識する〈2〉T細胞自身が増殖する――という機能を加える。

 目印をとらえるセンサーのような部分が「キメラ抗原受容体(CAR)」で、CARを付けた「CAR―T細胞」を体内に戻すと、白血病細胞を次々に攻撃するようになった。投与も1回で済む。

 米国で今年8月に承認されたCAR―T治療は、リンパ球の「B細胞」が、がん化して発症する急性リンパ性白血病が対象。子どもの場合、抗がん剤による治療で良い成績を得られるものの、薬物治療で治らなかったり、治療後に再発したりすると、5年生存率は10%を切るという。こうした難治性・再発性の25歳以下の患者の治療に使う。

過剰な免疫反応による副作用も

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 米ペンシルベニア州のエミリー・ホワイトヘッドさん(12)はこの病気が再発し、2012年4月に臨床試験でCAR―T治療を受けた。

 当初は、高熱などの副作用に苦しめられたが、別の薬で過剰な免疫反応を抑えて乗り切ると、白血病細胞は急激に減った。3週間で症状が出なくなる「寛解」の状態になり、その後5年以上、再発していない。ホワイトヘッドさんは復学し、犬の散歩やサッカーなどを楽しんでいるという。

 米食品医薬品局によると、開発した製薬大手ノバルティス社による臨床試験に参加した63人の患者のうち、52人が3か月以内に白血病細胞がほぼ消えた。東京大学医科学研究所病院長の小沢敬也さん(血液内科)は「これまで救えなかった患者にもよく効いており、遺伝子操作した免疫細胞による治療は今後の一つの柱になるだろう」と話す。

 ただ、過剰な免疫反応による発熱や呼吸不全などの副作用も確認されており、慎重な投与が必要になる。

日本で治療法が承認されたとしても…

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 CAR―T治療は、同じ目印をもつ他の白血病への効果も期待されている。国内ではバイオ関連企業のタカラバイオ(滋賀県草津市)が開発を進めている。

 一方で、がん細胞だけに特有の目印を見つけるのは難しく、様々ながんに対して研究は進むものの、白血病の次のターゲットはまだ明確ではない。

 遺伝子操作や細胞の培養にコストがかかるため、高額な治療費も課題だ。ノバルティスのCAR―T治療用製品「キムリア」の米国での薬価は47万5000ドル(約5300万円)。治療から1か月後に効果が認められた場合だけ患者に支払いを求める方式を導入しているが、日本国内ではそうした例がなく、治療法が承認されたとしても高額な薬価が議論になりそうだ。

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