安心の設計
介護・シニア
単身高齢者らの入居支援
NPOなど仲介、見守り

ふるさとの会のスタッフ(左)の訪問を受ける男性。「通院の際には、一緒に歩いて付き添ってくれるので安心」(東京都墨田区で)
賃貸住宅への入居を断られやすい単身高齢者や低所得者に対し、住まいの確保や入居後の見守りなどを行う支援が広がっている。空き家や空き部屋の活用を促す新制度も10月に施行され、取り組みを後押ししそうだ。
■「一人では難しい」
「調子はどうですか」。11月下旬、東京都墨田区の木造2階建てアパートの一室。訪問したNPO法人「自立支援センターふるさとの会」のスタッフが話しかけると、住人の男性(71)は「ちょっと足が痛くて」と答えた。
2年前、同会の系列の不動産会社の紹介で入居し、一人暮らしをしている。約10畳のフローリングの部屋が1室。ユニットバスや台所もある。家賃は月約7万円だ。
男性は、病気の後遺症で体にまひがあり、週に数回、介護保険の訪問介護サービスなどを受ける。ふるさとの会のスタッフも月に1~3回、訪問や電話で安否を確認し、病院へも付き添う。
男性は「自分一人で、借りられる部屋を見つけるのは難しい。何かあればスタッフに相談できるのも、ありがたい」と話す。アパートには、他に一人暮らしの男性3人が、同じ不動産会社の紹介で入居。互いに近所づきあいをしている。
ふるさとの会は1999年から、東京都内で路上生活者や低所得者の居住支援を行っている。このアパートや見守りも活動の一環だ。空き家になっていた建物を所有者に改修してもらい、ふるさとの会の系列の不動産会社が借り上げ、管理や仲介を行っている。
東京都町田市の社会福祉法人「悠々会」も5年前から、空き部屋を借り上げて管理し、高齢者らに貸している。部屋には、入居者が倒れた場合などに反応する見守りシステムを導入。スタッフが困りごとの相談にも応じる。昨夏、同市内のアパートに入居した久保田カヅ子さん(86)は「おかげで部屋が見つかり、感謝している」と笑顔で話す。
■大家の理解促す
高齢化や核家族化により、一人暮らしの65歳以上の人は、2015年の593万人から35年には762万人に増えるとみられている。だが、賃貸住宅への入居を断られる単身高齢者は少なくない。
日本賃貸住宅管理協会が16年度に行った調査によると、60歳以上の単身者の入居について、「拒否感がある」と回答した大家の割合は約6割。実際に60歳以上の単身者の入居を断っている大家は14.2%だった。外国人や生活保護受給者らを含め、断る理由は、「家賃の不払いに対する不安」(71.1%)が最多だった。
一方、空き家や空室は急増し、13年で全国に約820万戸に上る。
こうした中、大家の理解を促す取り組みもある。高齢者向けに仲介を行う「R65不動産」(東京都杉並区)は、月に1~2回、地域の大家10人ほどと一緒に勉強会を開催。高齢者の見守りサービスや、孤立死が起きた際に部屋の原状回復費用が支払われる保険などについて学ぶ。
山本遼社長は「空き部屋に困っていて、高齢者へ貸すことに関心のある大家さんも多い。共に考えることで不安を減らし、賃貸のハードルを下げていきたい」と話している。
「断らない部屋」に補助
国土交通省が導入した新制度では、耐震性や広さなどの条件を満たした物件について、「入居を断らない部屋」として都道府県などに登録を促す。自治体は大家に最大200万円の改修費を、登録物件に入居する低所得者には、家賃を月に最大4万円補助する。
都道府県はNPOや社会福祉法人を「居住支援法人」に認定し、住まい探しの相談や支援、家賃補償を担ってもらう。居住支援法人は、自治体や不動産業者などと「居住支援協議会」をつくり、連携して支援を行う。国交省は、協議会に参加する市区町村の割合を、現在の4割から2020年度末までに8割へ引き上げる考えだ。
悠々会の 陶山 慎治理事長は、「住まいの確保だけでなく、高齢者を孤立させず、地域とのつながりを作る支援が必要。新制度によって継続性のある支援が広がるだろう」と期待している。
(粂文野)
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