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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

「地域共生社会」を考える(下) 行政の下請けではない福祉活動を

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福祉・医療の資格に共通基礎課程

 専門人材の確保で厚労省が打ち出したのは、福祉や医療の資格を持つ人が複数の資格を取りやすくすることです。現状では別の資格を取ろうとすると、多くの場合、すでに学んだ科目を含めて最初から養成教育を受けないといけません。そこで基本的な医学、社会福祉学、対人援助技術などを共通基礎課程にし、過去に資格を取った人も共通科目は単位認定して、上積みの専門科目だけ勉強すれば済むようにするわけです。今のところ、次の12の資格を対象に2021年度の実施を目指しています。

【福祉系】介護福祉士、保育士、社会福祉士、精神保健福祉士【医療系】看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士、診療放射線技師、臨床検査技師

 これはもっともな施策です。ただし問題は、医療系に比べて福祉系の待遇が全般に低いことです。介護、保育、相談援助の仕事の多くは、誰でもできそうな仕事、昔から主に女性が家庭や地域でやっていた仕事の延長線上のように見られ、社会的評価が不十分です。待遇改善を本気で進めないと、福祉の人材確保には結びつかないでしょう。

専門の知識と技量が必要なソーシャルワーク

 地域共生社会づくりのポイントは、総合的な相談支援と住民参加の推進です。その核になるのが、ソーシャルワーカーと呼ばれる専門職です。国家資格では社会福祉士、精神保健福祉士がそれにあたります。

 ソーシャルワークとは、ひと言で表現すると生活支援です。困っている人の相談に乗り、よりよい暮らしを送れるように援助します。そうした業務を担うソーシャルワーカーは、親身になって人と接する技術に加え、複雑多岐にわたる社会保障・社会福祉制度を中心に幅広い知識が求められます。役に立つ社会資源(制度・団体・個人など)を把握し、他の関係機関と連携・調整する必要があります。

 さらに、個別ケースの支援だけでなく、人々の暮らしをよくするために地域を変える、自治体を変える、国レベルの政策や制度を変えるといった働きかけも、本来求められる重要な役割です。

 地域共生の政策がうたう総合的な相談窓口では、高齢、障害、子ども、貧困をはじめ、就労、医療、教育、住まいといった様々な領域の課題を受け止め、関係機関と連携することを厚労省は期待しています。地域住民との関係を築き、住民の活動づくりも後押ししないといけません。

 そういう広範囲の仕事を十分にやる力量を持ったソーシャルワーカーが日本に多数いるとは、残念ながら思えません。地域共生社会を看板倒れにしないためには、中核になるソーシャルワーカーを好待遇で募集し、優秀な「プロ」を確保することが欠かせないはずです。

社会福祉協議会の運営に住民参加の仕組みを

 もう一つの課題は、総合的な相談支援や地域づくりの中軸をどこが担うかです。意識の高い市町村が直営で取り組むこともあるでしょうが、お役所仕事を脱却するなら、民間が望ましい。力のあるNPOが存在する地域以外では、社会福祉協議会(社協)になることが多いと思われます。

 社協は社会福祉法に基づき、すべての都道府県と市町村に設立された「福祉のまちづくり」のための民間組織です。自治体の補助金、委託事業費、住民の払う会費、共同募金の配分などで運営されています。

 問題は、自治体の外郭団体のように扱われ、出向先、天下り先になっている場合が多いことです。幹部の人事権を自治体が実質的に握り、その幹部がお役所的な指示をしたり、自治体が下請け組織のように見て、細かいことまで口を出したり……。

 独立性を高め、自治体と対等に物を言える関係にしないといけません。その意味でも社協の活動や運営に、住民の意思を反映させる仕組みが必要です。(原昌平 読売新聞大阪本社編集委員)

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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