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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

「地域共生社会」を考える(下) 行政の下請けではない福祉活動を

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「地域共生社会」を考える(下) 行政の下請けではない福祉活動を

 「誰もが支え合うまちづくり」「縦割りでない包括的な支援体制」「住民が主体的に地域課題の解決に取り組む」……。地域福祉に関する厚生労働省の政策には、耳に心地よく響く言葉が並びます。国や自治体が公的責任を果たしつつ、住民の活動をサポートするのであれば、よい方向と言えるでしょう。

 それには住民の主体性を本当に尊重する必要があります。また、理念を実現するうえで大切なのは「人」です。具体的には、(1)住民の福祉に対する理解の向上(2)社会福祉の専門人材の確保(3)地域福祉の中軸を担う組織の確立――の3点がカギだと思います。逆に言うと、それらに不備があったり、公的責任をおろそかにしたりすれば、問題を丸投げされた住民は混乱して疲れ、地域が衰えかねません。

主体的な住民活動から有意義な行政批判も出る

 厚労省の政策文書では、これまで住民はもっぱら福祉サービスの受け手であり、一部の地域で住民参加の先進的な事例があるので見習おうという書き方です。

 しかし実際には、市民・住民はけっこう自主的な取り組みをしてきたと思います。障害児・障害者の支援では、親などが必要に迫られて共同作業所を作り、社会福祉法人やNPOに発展させてきました。介護保険、障害者福祉、子どもの預かりなどのサービスを行う団体も増えました。最近は子どもの貧困に関心を持つ人も多く、食事と居場所を提供する「子ども食堂」が各地にできています。

 そうした市民・住民の主体性を持った活動からは、行政に対する要求や批判も出てきます。行政が期待することの下請けではなく、現場からのアイデアや意見が生かされてこそ、地域も行政もよくなるのです。要求や批判の声を歓迎することまで含めて市民・住民の活動を育て、支え、発展させるのが自治体の責務でしょう。

 民間資金を得られればベターですが、公的な助成はやはり重要です。また、山間部や離島といった人口の少ない地域などで、住民が活動をやらなければ自己責任として放置するというのでは、困ります。地域事情や自治体の財政力、やる気によって大差が生じないよう、国からの財政支援や自治体首長への福祉教育も必要でしょう。

福祉の基礎講座で住民向けの資格を

 地域住民に期待されているのは、ボランティアやNPOによる日常生活の手助け、高齢者や障害者や子どもの居場所づくり、就労や社会参加の場づくり、孤立を防ぐ見守りなどです。校区での福祉相談を住民が受け持っている事例もあります。

 とはいえ、福祉を学んだことのない人が支援にあたるのは、生活の困難や心理の理解、プライバシー保護などの面で不安があります。悪気はなくても、不用意な発言や行動で相手を傷つけたり、他人の生活を好奇の目で見たりしてしまうかもしれません。

 厚労省は介護保険サービスで、調理、掃除、買い物などの生活援助に限定した従事者の資格を2018年度以降に新設する予定ですが、そういう職業的な資格とは別に、福祉活動にかかわる住民向けの基礎講座があると良いのではないでしょうか。障害・認知症などの基礎知識、社会保障制度のあらまし、貧困問題の理解、対人援助の基本といった内容で、1~3日程度の受講で取得できる資格(研修制度)を創設するのです。知識は受講者自身にも役立ち、共生意識や活動意欲が高まるはずです。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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