在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活
医療・健康・介護のコラム
リハビリテーションに栄養の視点を
11月25日(土)に、仙台市内で開催された「日本リハビリテーション栄養研究会学術集会」に参加しました。みなさんは、「リハビリテーション」と聞いて、どんなことを想像しますか。交通事故や病気のために身体に障害が残った人が、病院のリハビリ室で額に汗をにじませながら体を動かす練習をする――。そんなイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。
「リハビリテーション栄養」とは、そのような方に対して、心身の機能を改善し、日常生活、社会参加などが最大限可能になるように、栄養サポートを行うことです。
入院したら、病気は治ったけど歩けなくなった
ケガや病気などで入院すると、専門的な治療を受け、時には大きな手術を受けなければならないこともあるでしょう。しかし、治療が終わって体調が安定し、退院できるようになったのに入院前よりも10キロ以上痩せてしまい、長い間安静にしていたために筋肉も減少してしまって歩くことができずに車いすで退院……ということが、医療の現場ではしばしば見られます。
病気やケガの治療はできたけれど、入院前にはできたことができなくなってしまうこともあります。そのためにも、入院中になるべく生活機能を落とさないようにする必要があります。
年齢が若く、体力がある人の場合は、リハビリして筋力を取り戻せることが多いのですが、高齢者の場合は元の状態まで戻すことが困難です。したがって、入院中になるべく筋肉や筋力を減らさないようにしないとなりません。
ところが「長期間の絶食指示(食事を止めること)」や「不十分な栄養管理」のために、入院中にどんどん筋肉が分解されて、体重が減ってしまう例が後を絶ちません。
今回の学術集会では、興味深い事例検討会が行われました。「入院中に食事が取れずに体重減少し、入院前は歩いていたのに、ベッド上に座っていることもできないほど筋力が落ちてしまった」という事例について(骨折などの歩けないケガや病気ではありません)、会場の参加者も交えて議論が行われました。
「治療が落ち着いたら、なるべく早くベッドから起きて体を動かす」
「食事の時の疲労感を軽減する給食を提供する」
「食欲が湧くような食事に変更する」
「リハビリとともに十分な栄養を補給する」
など、さまざまな意見が出ました。
このように、入院中の栄養管理は「治療」の一環です。でも、自宅に帰った後の「食事と栄養」は誰がケアするのでしょうか。自宅では、病院のようなきめ細かな管理はできません。だからこそ、食べることや栄養状態に課題がある方には、訪問管理栄養士によるサポートが必要なのではないかと思いました。
手術が成功しても、傷が治りにくい人がいる
学術集会の締めくくりは、藤田保健衛生大学医学部の東口髙志教授(外科緩和医療学)の特別講演でした。外科医として多くの患者を治療してきた東口先生は、栄養状態の悪い患者さんに対して、術後の経過が良くないことを常に感じていました。そのため、院内の多職種で栄養サポートチームを立ち上げて知恵を絞り、患者がよりよい栄養状態を維持できるようなシステムを構築しました。「Nutrition Support Team(栄養サポートチーム)」と呼ばれ、今では国内の約1500病院で取り入れられています。
しかし、入院前から栄養状態が悪い患者さんは、治療開始の時点でマイナスからのスタート。それでは大きな手術や、厳しい治療に耐えられないこともあるのです。万が一、病気やケガで入院が必要な状態になっても、入院前から栄養状態を良くしておくことが大切なのです。「入院時からの栄養改善」では遅いのです。
年齢とともに、心身の機能が衰えていくことは避けられません。そして、いつか必ず人は死んでいきます。治療法のない病気になることや、体の 麻痺 などの後遺症が残ることもあるかもしれません。いくら栄養を入れても、体の中で使うことができず、栄養状態が改善しないこともあります。
しかし、「栄養」で少しでも治療効果が高まるのなら、試す価値があるのではないでしょうか。「食事」には副作用はありません。
「治療のための栄養」と「予防のための栄養」。どちらも同じくらい大切にしていきたいと思います。(塩野崎淳子 在宅訪問管理栄養士)
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