未病シンポジウム「腸内フローラから健康長寿の可能性を探る」
イベント・フォーラム
[未病シンポジウム](3)心と体 いきいき…パネル討論
感染症、うつ予防へ研究…森永乳業素材応用研究所長・阿部文明さん
山本 腸には多くの細菌が群生しているようです。
阿部 腸には100種類以上の菌がせめぎ合う状態で生存し、腸内フローラと呼ばれています。菌にも、ビフィズス菌のような有益な善玉菌と、ウェルシュ菌のような有害な悪玉菌がいます。
西村 フローラという名前はとてもかわいくて、柔軟剤みたいなイメージですが、その意味には驚きです。病気にどう関係しているか知りたいです。
阿部 善玉菌には乳酸菌もありますが、大腸ではビフィズス菌に比べると数がとても少ないです。そのためビフィズス菌の方が影響は大きい。有害な菌を抑える酢酸を作る働きがあるので重要な菌と考えています。酢酸は口から飲んでも大腸に届かないので、大腸でビフィズス菌を増やし、酢酸を作れるようにするのが大事です。
西村 ビフィズス菌と乳酸菌は別な働きをしていることが分かりました。
阿部 「BB536」というビフィズス菌の研究を約50年前から続けています。この菌でミルクタイプの飲料のほか、様々な製品を開発してきました。便秘気味の人にBB536入りのヨーグルトを食べてもらったところ、BB536なしのヨーグルトを食べた人より排便回数が増えました。腸内の環境が整い、便秘も改善したのだと思います。
山本 BB536の名前の由来は何でしょうか。
阿部 開発番号です。何千もの菌を保有し、順番に番号を付けています。
山本 努力の跡を感じる数字ですね。
阿部 ビフィズス菌は人の免疫機能に働きかけ、高齢者の感染症を防ぐのではないかとも考えています。うつ病や肥満の予防などについての研究も進んでいます。
佐藤 世界中で腸内フローラの研究が盛んに行われています。ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)が胃潰瘍を引き起こすことは有名ですが、私たちの研究グループは下痢や腹痛が起きる難病の潰瘍性大腸炎に関係する腸内細菌を見つけました。腸内細菌が大腸がんを引き起こす可能性も、原点に立ち戻って研究していきたいです。
大谷 人間は通常、突然病気になるのではなく、徐々に健康の状態から未病の状態を経て本当に病気になっていきます。すぐに薬や治療に依存するのではなく、生活のなかで病気に立ち向かう力を蓄えていくことが大切です。腸内フローラの効果を、これからも国民全体で生活のなかで実証していくことには意味があると思います。
「フローラ」の意味 驚き…タレント・西村知美さん
阿部 腸内にいる菌の種類は年齢とともに変わっていきます。生まれたばかりの赤ちゃんは母乳を飲むことでビフィズス菌が増え、生まれてから1週間ぐらいで腸内の菌の90%以上を占めるようになります。普通の食事をするようになると減り、大人の腸では10~20%になります。高齢になるとさらに減ります。
山本 赤ちゃんの健康にも深くかかわっているのですね。
阿部 別のビフィズス菌の「M―16V」の研究も進めています。極低出生体重児に食べさせたところ、腸内でビフィズス菌が増えて、腸内フローラが改善されました。腸が 壊死 する壊死性腸炎や感染症の発症が抑えられ、死亡率も下がったという研究結果を日本やオーストラリアの研究チームが発表しています。我々はM―16Vが入った粉状の製品を、このような赤ちゃんのために無償で、国内だけでなくオーストラリア、シンガポール、ニュージーランドの医療機関にも提供しています。
佐藤 順天堂大学でもM―16Vを研究してきました。日本人が開発した製品が広く利用されているのは喜ばしいことです。
阿部 欧米やアジアの多くの国ではビフィズス菌が入った粉ミルクが販売されています。ただ日本ではまだ、販売が認められていません。
大谷 日本では、食品や医薬品について、安全性や効果を厳しくチェックする手続きがあります。いずれは、きっとクリアできると思いますので、手続きが早く進むことを期待しています。
阿部 妊婦さんと生まれた赤ちゃんにビフィズス菌を食べてもらうと、食べない場合よりも、赤ちゃんのアトピー性皮膚炎の発症率が下がったという研究の成果も出ています。
西村 出産、育児をした頃に聞きたかったお話です。
山本 生き生きとした日常を送るためのポイントを教えてください。
大谷 健康作りの大切さに気づいてはいても、多くの人はなかなか長続きしません。ビフィズス菌の入った製品はおいしいので、取り続けることができます。効果も実感できれば励みになり、病気の手前の状態を食生活を通じて維持するという、未病の考え方に合致すると感じました。
佐藤 まず体を動かし、カロリーを消費することが基本となります。そして脳を元気にしてほしい。ビフィズス菌は脳を活性化することが期待できます。
阿部 腸内フローラは一生を通じて健康に関わるキーワードだと思っています。乳児から大人、高齢者までどの世代の健康も、腸内フローラが関係しています。これからも多くの先生たちが研究を行い、新しい知見が出てくるでしょう。
西村 腸内環境が良くなれば未病につながっていくことを学びました。まず体の内側からきれいにしていきたいと思いました。さらに腸内細菌は精神にも影響があると聞きました。体だけでなく心も健康を保ち、健康寿命を長くできるように気をつけていきたいです。
<極低出生体重児> 生まれた時の体重が1500グラム未満の赤ちゃん。多くは早産で、臓器の構造や機能の成熟が十分でないため、新生児向けの集中治療室などでの治療が必要となる。病原体に感染し全身に炎症が広がる敗血症や、慢性肺疾患のような重い症状が起きるリスクが高い。
◇あべ・ふみあき 1961年生まれ。87年、茨城大学大学院農学研究科修士課程修了後、森永乳業入社。機能素材事業部長、食品基盤研究所長などを経て2015年から現職。日本ビフィズス菌センター理事なども務める。
◇にしむら・ともみ 1970年生まれ。86年、映画「ドン松五郎の生活」でデビュー、「わたし・ドリーミング」で第28回日本レコード大賞・新人賞を受賞。TBSの「さんまのスーパーからくりTV」などバラエティー番組に多数出演。
◇やまもと・まいこ 1978年生まれ。東京大学医学部卒、日本テレビ入社。「ズームイン!!SUPER」などを担当、2011年フリーに。看護師、保健師の資格を生かし医療シンポジウムの進行役として活動している。
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