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未病シンポジウム「腸内フローラから健康長寿の可能性を探る」

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[未病シンポジウム](2)「第2の脳」体全体に影響…メタボ予防「ヤサシイマゴ」?

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学校法人順天堂理事 順天堂大学名誉教授・特任教授 佐藤信紘さん

未病シンポジウム(2)「第2の脳」体全体に影響…メタボ予防「ヤサシイマゴ」?

 ◇基調講演

  ■メタボとロコモ

 「健康長寿でありたい」という願いは、誰にでもありますよね。

 今、日本人の平均寿命と健康寿命の差は、男性で大体8~9年、女性で12~13年あります。この期間は病気を抱えて生きていることになります。

 日本人の健康寿命は決して短くはないのですが、長生きするから寿命との差が開いていくのが現状です。

 ここに様々な問題が出てきます。年金なども含めた「老後への不安」「病気への不安」「寝たきりになる不安」「介護への不安」。

 介護については、世界保健機関(WHO)でも、介護を受ける側と介護する側(子どもたち、配偶者など)の問題が、1対1の関係で捉えられ始めています。

 寝たきりの問題に関しては、加齢に伴い足腰が弱って動けなくなるロコモティブシンドローム(ロコモ)が注目されていますね。

 それと、その上流に生活習慣病・メタボリックシンドローム(メタボ)があります。体に変調を感じなくても、肥満をベースに、血圧、コレステロール、血糖などの数値に異常が出る。自覚症状だけでなく、数値で確認し、自己管理することが大切です。

 肥満になると、体が重くなる。すると動かない。重力に負けて座りたくなる。結果、筋肉が弱り、ロコモになる。余計に体を動かさなくなり、代謝が落ちる悪循環に陥りやすい。

 食べた物をどう使うかが重要ですが、そのバランスが崩れると、ひいては認知症、がん、寝たきりになりやすくなる。

 今、国内でがんと新たに診断される人は年間101万人と言われます。これをどう防ぐか。禁煙、節酒、運動、姿勢、カロリーの制限、減塩が大事です。あとは、肝炎や子宮 けい がんのウイルス、ピロリ菌に感染していないか調べることも大切です。

 メタボは、がんのリスク因子にもなります。そしてロコモにもつながる。すると筋肉、骨が弱くなり、転倒しやすくなる。転倒から寝たきりになる人も多い。 その予防に何が大事かというと、野菜と果物の摂取を増やすこと。食物繊維は腸内細菌にとっても重要です。あと「腹八分目」は、みなさんご存じですよね。

 「マゴタチワヤサシイ」はご存じですか?

 豆、ゴマ、卵、乳(牛乳)、ワカメ(海産物)、野菜、魚、シイタケ、イモの頭文字です。豆には、豆腐や納豆も含みます。ゴマ類はクルミやアーモンドも同様です。

 運動療法としては「正しく歩く」。胸を張って、肩をちょっと後ろへ、手を振って、目線を正面に向け、鼻が下に通るように――というのが正しい姿勢。すると、呼吸がきれいになる。歩く際、1、2、1、2と数えたり、音楽を聴いたりするとリズミカルに歩ける。

 お酒は、なぜ大量に飲んではダメか。少量なら大半が胃で吸収されるのですが、2合、3合と量が増えると、どんどん腸に行ってしまう。これがよくない。

 腸に行くと腸内細菌を活性化して、毒素を出す。その毒素が肝臓にダメージを与えて、肝炎を起こす。アルコール性肝炎は、これを連続して起こす病気です。

  ■腸内フローラ

 腸内細菌の話をしましょう。主に大腸の ないくう に、個性豊かな多くの種類の細菌群がお花畑のように存在しています。腸内フローラのフローラとは花のことです。

 人の腸内細菌は100兆個もあります。人間の細胞の数は60兆個と言われますが、それを超える数です。

 一般に体に有用な「善玉菌」、炎症などを引き起こす「悪玉菌」と分けられていますが、それ以外の中間の菌を「日和見菌」と呼んでいます。日和見菌は、ふだんは害を及ぼさないのですが、老化などで免疫力が低下すると病原化する菌です。

 こうした腸内細菌の研究が盛んになり、いろいろなことが分かってきました。

 潰瘍性大腸炎に対して、順天堂大学は2002年に病気に関係する菌を見つけ、抗生剤で治療してきました。現在では、抗生剤治療後の腸内フローラのバランスを整えるために、健康な人の便をきれいにして患者の腸内に入れる「便移植」という治療を行い、7割の患者さんが良くなっています。

 また、太っている人の便を与えられた無菌マウスは太り、やせている人の便を与えられた無菌マウスはやせたという報告もあり、太りやすさなどの体質にも影響するのではないか、と考えられるようになりました。心臓病や一部の精神疾患にも腸内細菌が関係しているとの報告もあります。

 おなか(腸内)の神経系は、脳の支配を受けないで、イソギンチャクのように自律的に機能するので「第2の脳」と呼ばれています。

 交感神経・副交感神経という自律神経系と連携していて、脳・中枢神経ともつながるので、心と体全体に影響を与えます。腸内フローラは、このおなかの神経系に働きかけるため、免疫力や代謝なども含め、体全体に影響を与えるのです。

  <潰瘍性大腸炎>  大腸の粘膜に炎症などがおきて、下痢や腹痛が起きる難病。国内患者数は16万人を超え、安倍首相の持病としても知られる。腸内細菌の関与や免疫反応の異常などが指摘されているが、原因は明らかになっていない。

 ◇さとう・のぶひろ 1940年生まれ。65年、大阪大学医学部卒。大阪大学第一内科助教授、順天堂大学消化器内科主任教授、順天堂大学練馬病院院長、大阪警察病院院長などを経て現職。順天堂大寄付講座「腸内フローラ研究講座」代表なども務める。

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